金融危機後の経済運営に苦慮する欧米の政策担当者の間で今、ある本が注目を集めている。800年に及ぶ経済危機の歴史と教訓を探った「THIS TIME IS DIFFERENT:Eight Centuries of Financial Folly」(プリンストン大学刊)がそれだ。著者は、国際通貨基金(IMF)元チーフエコノミストのケネス・ロゴフ・ハーバード大学教授とカーマン・ラインハート・メリーランド大学教授。メインタイトルを直訳すれば、「今回は違う」だが、実際の主張は真逆だ。世界は、言うなれば「今回は違うシンドローム」に囚われ、同じ過ちを繰り返してきたという。その診断が正しければ、今回も危機の第二波が近づいている。ソブリンデフォルト、すなわち政府債務の不履行の津波だ。欧米の経済政策論議に大きな影響力を持つロゴフ教授に、世界経済そして日本経済の行く末を聞いた(聞き手/ダイヤモンド・オンライン副編集長、麻生祐司)。
Kenneth Rogoff(ケネス・ロゴフ) 国際金融学の権威。1999年よりハーバード大学経済学部教授。2001~2003年は国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストを務めた。10代からチェスの名人として世界的に知られ、国際チェス連盟から最高位の称号である国際グランドマスターを授与されている。1980年にマサチューセッツ工科大学(MIT)で経済学博士号取得。1953年ニューヨーク州ロチェスター生まれ。 |
―主要国による積極的な財政出動や金融緩和策が機能し、世界経済は最悪期を脱したとの論調が広がっている。これは錯覚なのか?
率直に言って、世界経済の先行きを楽観するのは、間違いだ。
歴史は繰り返すとすれば、今回の大不況の終焉はまだ訪れていない。過去、世界経済は幾度となく金融危機に見舞われたが、多くの場合、危機発生の2~3年後あたりから、ソブリンデフォルト(政府債務不履行)の大波に襲われてきた。
1930年代の大恐慌の後には、1950年代初めまで世界各地で対外債務、対内債務のデフォルトがずるずると続いた。カーマン(ラインハート・メリーランド大学教授)と私の共同研究では、この間、実に世界の半分近くの国が政府債務の不履行もしくはリスケジューリング(債務返済繰り延べ)に追い込まれたことが分かっている。1980年代初頭のコモディティ相場の崩落もその後、ラテンアメリカ諸国を中心とするデフォルトの増加につながった。古くは、ナポレオン戦争後の19世紀初頭の混乱期にも、多くの国がデフォルトしている。
カーマンとは、欧州、北米・南米、アジア、アフリカ、オセアニアの66カ国の数世紀に及ぶデータを精査したが、多くの国で金融危機後の3年間で財政赤字が3倍に膨れ上がっていた。周知のとおり、主要国の多くが今、そのコースを辿っている。債務が膨らみ、不況が長引き、その後各地で高インフレや金融逼迫が同時多発した過去と今回だけは絶対に違うと、誰がどうして言い切れるだろうか。