**責任範囲を明確にする必要性から組織がつくられる

「これらの業務がきちっと実施されているのかを見ているのが、社長であった四季川さんになるわけだな」

 分岐の線をまとめ、一番左に四角形を描き、社長と書き入れた。

「これは君も見たことがある、組織図というものだろう?」

「ほんとだ、そうですね」

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「これらの職務は全て、当初は四季川さんが自分の手と体と、そして頭を動かして行っていたわけだ。そして事業が大きくなると共に、四季川さんの一日が、たとえ24時間以上あっても足りなくなってくる。それで、手を動かしたり、体を動かす作業を、他の人に指示してやってもらうことにした。それまで一人がやってきた仕事を二人以上の分業で行うために、仕事の責任範囲を明確にしなければいけないという必然性からつくられるのが組織なんだ。事業の規模が大きくなってくれば、それに伴って組織も大きくなる」

 高山は、そんな見方を今までしたこともなかったため、安部野の説明が新鮮に聞こえた。

「店が増えてくれば、店は営業部、あるいは店舗運営部という名前でくくられて責任者が置かれる。商品仕入れだけではなく、在庫の管理や売り切りの管理も含めて、商品部としてまとめられる。さらに店にお客さんを呼ぶためのチラシやDMを作る販促部もできる」

 安部野は紙をめくり、新しく組織図を書きはじめた。

「さらに重要な役目として、お金の動きをしっかり見る経理・財務の業務がある。お客さんが店にたくさん来て商売が流行っていても、商品を多く仕入れ過ぎてしまうと、手元の金が足りなくなり、取引先への支払日に仕入れ代金が払えない、なんてことが起きる。そうならないように、しっかり今の手元の金の残高と、この先の支払い予定の管理をしなければいけない。もし、社内の手元の金が少なければ、当面、商品を仕入れる金額を少なくするように仕入れ担当に伝えなければならない。手元現金の管理を怠ると支払いが滞ることもあり、それだけで事業の息の根が止まることもある」

 安部野は話を続けた。

「また、直接的に商売につながる仕事じゃないが、人事も重要な仕事だ。これらは一般的に、管理部門と言われる」と、安部野は、経理・財務部、人事部の箱を組織図に書き入れた。

(つづく)

※本連載の内容は、すべてフィクションです。
※本連載は(月)~(金)に掲載いたします。


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