エコシステムを強化する「サムライWiki」構想

 サムライインキュベートでは、こうしたエコシステムを強化するために、いくつかの工夫をこらしています。

 起業家と専門家のやり取りを密にするために、サムライスタートアップアイランドまで専門家の方に来ていただいていることはすでにお話ししました。

 具体的にお名前を出すと、JSV外国法事務弁護士事務所の佐々木・ジョン・洋介弁護士、森・濱田松本法律事務所の増島雅和弁護士、AZX総合法律事務所の後藤勝也弁護士、VALUE UPの造田洋典公認会計士、樋口会計事務所の樋口俊輔公認会計士、トーマツベンチャーサポートの斎藤祐馬さん、佐藤史章さん、木村将之さんなどがアドバイスをしてくれています。

 また、起業家同士のネットワークを強くするためのしくみもいくつか構築しています。

 1つは、サムライ軍団のポータルサイトです。ここにはさまざまな情報や経営管理ツールが公開されています。僕らが作成して提供しているものもありますが、支援先のベンチャーがつくったものも少なくありません。

 たとえば、会社を回していくために必要な社内文書(請求書、見積書など)はすべて揃っていますし、経営計画のフォーマットや契約書のひな形もあります。お付き合いのあるVCや弁護士、会計士、税理士、記者などの専門家の情報もあります。起業家にとっては、わずらわしい日常業務や余計な情報収集の手間が大幅に省けることになります。

 もう1つは、サムライ軍団のFacebookグループです。この本を書いている段階では、経営陣のみで120人くらいがメンバーになっています。

 わからないことがあればここに疑問を投稿し、互いに教え合うしくみです。たとえば、「Facebookのアプリをつくろうと思っているのですが、○○の段階で困っています。解決策をご存じの方はいますか?」と聞くと、経験者が教えてくれるのです。課題を集合知で解決しようというのは、エンジニアにはお馴染みの文化ですが、それを起業の課題全般にまで広げたものになっています。

 さらにいま、もう1つ進めているのは、サムライ軍団内での日報の共有化です。これには森田昌宏さんが運営する「gamba!」という日報をソーシャル化するサービスを利用する予定です。

 社内外から「いいね!」が付けば、日報を書くモチベーションも維持できますし、うまくいっている会社の日報を見れば、何が成功の要因なのかを考えることもできます。これを発展させ、ノウハウを共有するだけでなく、今後は売上の数値進捗を全員で共有することも考えています。業績をオープンにすることで、お互いに良い刺激を得られるようになるのではないかという目論みです。

 こうした工夫の結果、僕のインキュベーターとしての仕事も、ものすごく効率的にできるようになりました。

 以前は1社1社個別に教えていたことも、いまはサムライ軍団のFacebookグループに投げ込めば全員に伝わるようになっています(そもそも、先ほど書いたように、ここで勝手に解決する課題も多いです)。

 したがって、各社のミーティングでは、その会社のコア業務に集中して話ができるようになりました。内容は濃くなりますが、さほど時間もかかりません。そのため1日平均15社との定例ミーティングが可能となり、ここぞというタイミングで適切なアドバイスをすることができます。

 「榊原さんはあんな数のベンチャーに投資して、どうやって週1回のミーティングをしてアドバイスをしてるんだ?」と言われることもありますが、これがその秘密です。正直なところ、まだまだ投資先が増えても大丈夫です(笑)。

 未来の話になりますが、最終的にはこうしたしくみを統合して、「サムライWiki」という名の起業家版ウィキペディアを作成するつもりです。詳しい知識をもった人が自由に書きこめるウィキペディアのように、いろいろな起業家が自分の成功体験を書き込んでいくことで、自然とそこに成功のためのノウハウが集まるしくみです。

 そしてその情報をすべての起業家に解放し、VCにも、インキュベーターにも、大企業、行政にも提供しようと思っています。将来的に僕はインキュベーターも育成したいと思っていますが、このしくみはその助けにもなるはずです。

あと少しで海外からの投資も呼び込める

 日本版エコシステムが完全に確立するまで、あと少しです。バイアウトがより一般的になり、IPOも増えてバランスよく資金が回りだせば、ベンチャーはもっともっと増えて、日本を変えていくはずです。

 そうなれば、いままであまり前例のない、海外から日本登記の会社への投資も増えてくるでしょう。500 Startupsのデイブ・マクルーアなど、日本に注目する海外の投資家も出てきました(500 Startupsは、Yコンビネーターとならぶシリコンバレーのインキュベーターです)。

 実際、日本のIT系ベンチャーのアイデアや技術力は、シリコンバレーにひけをとらない水準です。Yコンビネーターの投資先の企業と比べても、決して負けていません。何かきっかけとなるコネクションさえできれば、一気に世界から注目される可能性もあります。
そうした思いから、支援先の株の一部をシリコンバレーのVCに譲渡することも決めました。はじめのうちは彼らに「必ず儲かるモデル」を提供するくらいの気持ちでいます。アメリカのVCにサムライ経由での成功事例をつくってほしいからです。日本の会社も投資すれば儲かることをわかってもらいたいのです。

【著者紹介】
榊原健太郎(さかきばら・けんたろう)
1974年生まれ。名古屋市出身。株式会社アクシブドットコム(現VOYAGE GROUP)創業期において営業統括として、営業本部の立上げ、営業販促戦略、広告商品開発、アライアンス戦略に取り組む。その後、インピリック電通(現 電通ワンダーマン)にて、大手情報通信・飲料メーカー・金融会社のダイレクトマーケティング戦略に従事。その後、株式会社アクシブドットコム(現 VOYAGE GROUP)に復帰、営業統括として、西日本広告販売ブランチの立上げ、営業本部の再構築、モバイルサイトの立上げに従事。2008年にシード・アーリー ベンチャーの経営・マーケティング・営業・人事・財務・CI戦略支援に特化した株式会社サムライインキュベートを設立し代表を務める。スタートアップのベ ンチャーに投資するとともに、60社程のベンチャーの社外取締役を兼務している。

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