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なぜ脳は「なんとなく」で買ってしまうのか?
【第5回】 2013年9月11日
著者・コラム紹介バックナンバー
田邊学司

第5回
トップシェアひげ剃りと戦闘機の奇妙な関係
商品・ブランドの価値を左右するメタファーの力

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各企業は、他社を追い越し、追い抜くために、マーケティングリサーチに勤しんでいる。にもかかわらず、店頭には似たような商品ばかりが並び、消費者は違いがあることすら気づいていないこともあるだろう。
いま、脳科学とマーケティングが融合した「ニューロマーケティング」が注目を浴びている。アンケートやグループ・インタビューからは読み取れない、言葉にできない消費者の“ホンネ”とは。「なんとなく」の正体に脳科学で迫る。

トップシェアひげ剃りと戦闘機に生まれた関係性

 男性用替え刃ひげ剃りブランド「マッハスリー(Mach3)」が導入された1998年当時、替え刃式のひげ剃りは「使い捨ての間に合わせ」というイメージからか、簡素で低価格な商品が圧倒的に多く、多くのメディアから「不必要に飾り付けが施された、高価な替え刃ひげ剃りを買う人はいない」などの批判があったという。

 しかし、蓋を開けてみると、マッハスリーの導入から6ヵ月で約60億円の売上を記録し、前作の「ジレットセンサー」の4倍の記録を樹立。替え刃も同時期に約68億円を売上げ、あっという間に、アメリカとヨーロッパのナンバー1シェアブランドに君臨することになった。

ジレット社「マッハスリー」のパッケージ
出典:http://hellogiggles.com/item-of-
the-day-gillette-mach3-razor

 ここで、実際の商品を見てみよう。当時の「替え刃=使い捨てひげ剃り」の安っぽさを大きく裏切るように、アクアグリーンのパッケージの中央には、操縦桿を思わせる重厚な銀のシャフトに黒のラバーグリップが鎮座し、その本体がまるで雲を切り裂くかのように、パッケージの上方へと滑空しているように見える。

 そして、全世界で統一されたというテレビCMは、ジェット戦闘機が画面に向かって突っ込んでくるシーンからスタートする。そう、この「マッハスリー」はネーミングだけでなく、ブランドのあらゆる知覚品質が、雲を切り裂くジェット戦闘機という「メタファー(喩え)」で像を結ぶよう設計されているのだ。

 全世界における膨大なデプスインタビュー調査の結果、同社のチームは、世界中の多くの男性が、ひげを剃る行為はイライラする、時間のかかる作業であると感じていることを把握していた。つまり、「髭をきれいに剃る」というひげ剃り本来の価値とはすこしズレた、時間価値(Quickness of Shave)に着目し、「素早く剃れていく様(さま)」を動的に捉えたのである。

 替え刃ひげ剃りの特徴は、シェービングフォームを頬に蓄え、それをなぞるという手続きにある。これをすばやく行うと、まさに「雲=シェービングフォーム」を切り裂く「ジェット戦闘機=マッハスリー」というメタファーになる。世界中のネーミングテストではっきりと需要が確認されたのは、まさにこのマッハスリーだった。

商品やブランドの価値すら左右するメタファー

 ひげ剃りという商材に、音速の単位を意味する「Mach」を与えたことで、人の脳はその連関をなんとか頭にイメージしようとする。

 CMのジェット戦闘機、パッケージの雲を切り裂くデザイン、操縦桿のようなグリップを見ることで、脳はバラバラになっているパズルのピースをつないでいく。たとえば、マッハスリーにはシェービングジェルではだめだ。雲を連想させる、シェービングフォームでなくてはならないと考えるかもしれない。こうして、マッハスリーは、ひげを剃るという機能だけの競争から離脱し、独自の付加価値を高めていくことになる。

 メタファーはこのように、ひげを剃るという機能とはまったく別の部分で、人の脳を起動させ、ビジネスを全く別次元の戦いへと持っていってしまう絶大な役割を担う。にもかかわらず、多くの企業ではメタファーよりも具体機能のベネフィット議論に終始し、メタファー自体が経営上の最重要機密事項として取り扱われることは稀だ。

 もし、ひげ剃りの事業戦略を議論しているなかで戦闘機の話題を持ち込んでも、まともに取り合ってくれるのは広告担当者くらいのものだろう。

 しかし、広告表現に留まらず、商品の特徴、デザイン、触感、広告、ネーミングのあらゆる要素がひとまとまりにならないと、無意識の知覚下で不協和が生まれてしまい、脳は心地よいパズル遊びをやめてしまう。広告だけでメタファーを適用しても、脳はその薄っぺらいイメージの“化粧”をすぐに見抜いてしまうだろう。

 実際に、ジレット社は、全世界で受け入れられる男性用替え刃式ひげ剃り「マッハスリー」の開発と導入に当たり、すべてのマーケティング要素を協奏させるため、5年もの間R&Dチームとタッグを組んできた。そして、導入後は、パッケージ、タイプフェース(ロゴのデザイン)、アクアグリーンのカラースキームからPOP(店頭の販促物)の設計まで、決して変更は許されない厳格な管理体制が全世界に敷かれたのである。

 つまり、メタファーの設計とは、商品やブランドを設計するうえで非常に重要なのである。

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田邊学司(たなべ・がくじ)

株式会社GFL代表取締役CEO。
東京外国語大学卒業、カナダ・ウェスタンオンタリオ大学MBA(経営学修士)修得。株式会社博報堂にて、20年間、マーケティングおよびブランディングに従事。主に新商品開発、イノベーション開発、ビジョン・コンセプト構築等を中心に、ブランド強化のための数多くのプロジェクトを手がける。2009年、ニューヨークのニューロマーケティングコンサルタンシー「バイオロジー社」の社外取締役に就任し、国内及びグローバルでの非言語ブランドプロジェクトを推進。2013年5月、独自のゲーム型直感リサーチシステム「ファンケート」を開発・販売する株式会社GFL(Gut Feeling Laboratory Inc.)を創設し、現職。
共著書に、『ブランドらしさのつくり方』(ダイヤモンド社)がある。

 


なぜ脳は「なんとなく」で買ってしまうのか?

コカ・コーラ、資生堂、ホンダ、ユニチャーム、竹中工務店…国内外のトップブランドが、言葉にできない消費者の“ホンネ"に迫ろうと、日夜、研究・実用化に勤しんでいる。いま最も注目を浴びる最新マーケティングの正体とは何か?『なぜ脳は「なんとなく」で買ってしまうのか?』の刊行を記念して、書籍では紹介しきれなかった話も盛り込みながら、ニューロマーケティングの魅力が語られる。

「なぜ脳は「なんとなく」で買ってしまうのか?」

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