米アップルが新型iPhoneを発表し、NTTドコモもついに取り扱いを決めた。ドコモにとって、顧客流出に歯止めをかける一方、売れば売るほど戦略に矛盾する“劇薬”となりかねない。

 日本時間の11日に米アップルが発表した新型の「iPhone5s」「iPhone5c」。その前週末、都内の家電量販店では、販売員が旧型iPhoneの売り込みに声をからしていた。

「実質無料」「キャッシュバック」などと書かれた看板を手に客を囲み、「在庫処分といってもいいのですが、これまでで本当に一番お得ですよ」などと巧みなトークで契約を迫る。一方で、NTTドコモのブースは閑散としていた。

 一番人気のiPhoneが他のスマートフォンよりも「安い」のは、今に始まったことではない。ソフトバンクとKDDIは他の端末よりも優遇して販売をてこ入れしてきたからだ。

 対してドコモは今年5月、重点機種を二つに絞る「ツートップ戦略」を打ち出し、顧客流出に歯止めをかけるとともに、従来型携帯電話からスマホへの変更を促した。ドコモ広報部は「ツートップ戦略は順調」と言うが、実態は違う。

 顧客流出は依然、続いている。電話番号持ち運び制度(MNP)を利用した他社への乗り換えが、昨年9月以降12カ月間で計172万件にも上った。単純に月額平均5000円とすれば、年間1000億円もの減収に相当する。

 苦境を象徴するのがスマホ対応である。家電量販店を中心としたBCN社の調査によれば、ドコモのスマホ販売台数は、前年同月比で減少傾向が続いている。今年7月には19%減と初の2桁減を記録(上図参照)。家族割引などで前年の販売が好調だった点を考慮しても、極めて厳しい数値だ。

 週刊ダイヤモンドが入手した実際の端末販売台数の数値はさらに顕著である。7月は前年同月比2割、8月も同3割強の減少となり、何も手を打たなければ新型iPhoneが販売される秋以降、さらなる落ち込みが予想された。

 厳しい販売条件を嫌い、iPhoneを取り扱ってこなかったドコモが、ここにきて方針転換を図ったのは、背に腹は代えられないという事情があった。

 では、これでドコモにばら色の未来が開けるのか。