旧薬事法は“ザル法”
10年前から続く議論
規制緩和とは、いかに難しく、遅々として進まないものなのか。その例を挙げ始めたらキリがない。我々一般消費者にとって、身近に感じることのできる最たる例が、「医薬品ネット販売」に関する規制緩和だろう。
一口に薬と言っても様々であるが、①主に医師が処方する「医療用医薬品」と、②薬局・ドラッグストアなどで販売されている「一般用医薬品」(大衆薬、市販薬、OTC医薬品とも言われる)に大別される。本稿のテーマは、この「一般用医薬品」に関する規制緩和についてである。
医薬品のネット販売に関する話は10年前に遡る。筆者の記憶では、インターネットによる通信販売で医薬品を売ること(医薬品ネット販売)について、監督官庁である厚生労働省が具体的な動きを見せたのは、2004年9月のことだ。
それ以前から、厚生労働省は、うがい薬、胃腸薬、殺菌消毒薬、コンタクトレンズ装着液など薬効が比較的緩やかなものに限っては、ネット販売を認める一方、それ以外の医薬品のネット販売を禁止する法的根拠をもっていなかった。
ところが、幅広い医薬品をネット販売する業者が続出したため、厚労省は関係業者への監視・指導を徹底し始めた。これはいわば行政指導ベースでのことであり、法令上では医薬品のネット販売に関する規制は想定されていなかった。
もっとも、この頃の薬事行政には別の大きな課題があった。医薬品の販売に当たっては、専門家である薬剤師が店舗に常時配置され、消費者に対して適切に情報提供しなければならないのが原則だ。だが、ドラッグストアなどでは、必ずしも薬剤師が常駐していないことが半ば常態化していた。即ち、薬事法規制がいわば“ザル法”であることが、大きな問題となっていた。
施行まで3年かかった改正法
利害調整に多大な労力がかかった
こうした状況もあって、2006年6月に薬事法が改正され、09年6月から施行された。その趣旨は、「一般用医薬品の販売に関して、医薬品のリスクの程度に応じて専門家が関与し適切な情報提供等が行われる、実効性ある制度を、国民に分かりやすく構築すること」だった。言い換えれば、一般用医薬品の販売体制そのものの底上げを実現することが目的だった。