なぜか“食べ物用語”が満載だけど
食べられない合成樹脂の世界

「朝はやはり、早いんでしょうか?」

「起きるのは午前6時か6時半。会社に来るのは7時半か8時くらいになりますね」

「ひょっとして、社長が一番早い?」

「いや、もっと早く来ている社員もいます。それに、工場はシフト制で午前7時半から動いていますから」

 以前は本社も工場も、午前8時半の始業開始時になると一斉にラジオ体操をしていた。しかし、シフト制導入に伴い、ラジオ体操は止めた。代わりに、本社では午前8時半から毎日、営業の打ち合わせをしている。

「我々の仕事は基本的に溶かしたものを固める、それだけですから。現場ではけっこう同じ失敗もする訳です。それを共有した方が新しいものを作る時に余分なテストを省けるよね、ということで営業同士が密に情報交換をしよう、ということになりまして」

「社長も現場に行かれるんですか?」

「はい。入社してすぐの頃はそうでもなかったんですけれど。行っても機械は触れないですし、素人ですからやれることはない。そう思っていたら、現場から『来てくれ』と言われまして。よくわからないけど、来てくれたら成功するような気がするから、と」

 なぜ、現場は社長に来てほしがるのか。その気持ちが今ひとつわからないため、詳しく製造現場の様子を聞いてみることにした。

「たとえば、初めての料理を作る時は調味料の加減とか、難しいですよね?」

 犬飼さんが説明する。

「そうですね」

「プラスチックも同じです。作り方は割と単純ですが、材料によって分子の収縮率が違うんです。ですから、同じ金型を使っても寸法が微妙に違ったり、『ショート』と言って、樹脂が金型全体にうまく行き渡らなかったりすることがあるんです」

 合成樹脂、すなわちプラスチックには大きく分けて2つのタイプがある。「チョコレート型」と「ビスケット型」である。樹脂は熱を加えると溶けるが、冷やすと固まる。固まった樹脂に再び熱を加えて軟らかくなるのが「チョコレート型(熱可塑性樹脂)」。いったん硬化したら熱を加えても軟らかくならないのが「ビスケット型(熱硬化性樹脂)」である。

 犬飼さんの工場では、これらの合成樹脂を「圧縮」または「射出」と呼ばれる方法で成型していく。

「圧縮はいわばタイ焼きと同じ原理です」

 材料を溶かし、金型に入れて加熱・圧縮する。すると、型に沿った形のタイ焼きならぬ、プラスチックができ上がる。一方の射出はといえば、注射器のような機械を使って樹脂を型に流し込む。

 これら2つの方法とは別に「ひき肉機」のような機械を使う「押出成形」や、麺やパスタの生地を引き延ばす要領で作る「カレンダー成形」など、プラスチックの成型方法にはいろいろあって、なぜか、料理や菓子作りにまつわる用語で説明されていることが多い。食べられないのが残念なくらいである。