欲求=WANTS/ウォンツという人間の本質的なエネルギーのようなものが、ともすれば私たちのビジネス発想からすっかりすり抜けてしまっていて、なんとなくテクノロジー主導の開発に陥るケースが少なくない。そしてウォンツ主導のビジネス開発、ハードではなくその背後にあるサービスを想像する力、人々の欲求の道筋をデザインするプロセス、これらが重要なことを前回提起したが、今回は、その「ニーズからウォンツヘ」というパラダイムの転換ともいうべき現象が、なぜ起こっているのかについて、メディアデザイナーとしての視点から整理してみたい。今までのような開発プロセスでは、もはやイノベーションは起こせなくなっているのだ。

迷走するプロジェクト……
「一体、誰のニーズなんだ?」

 僕らは「ニーズ」という言葉をよく口にする。社会的ニーズ、大衆のニーズ、消費者のニーズ……。「この商品のニーズ、本当にあるのか?」「もう少しニーズを洗い出してみよう」とか、そんな感じだ。多くの人がニーズに、そのアイデアの確信や、発想の裏付けを求めてきた。

 決定者が判断できない場合、主観的な直感やインスピレーションより、客観的な説得力が欲しくなる。ニーズの再検証に時間を費やすが、なんだかしっくりこない。最初のアイデアでは盛り上がったのに、ニーズの検証をやってるうちに、どんどんその企画の輝きが失われていく。あるいは、プロジェクトが迷走していく。そんな経験を持っている人は多いと思う。

 あるいは、ニーズやマーケティングのデータから企画を組み上げようとしても、なんだかふわっとして、当たり前の発想の域を出ず、心に響く力がない。欲しいのは、新しいサービスやプロダクトを生み出すのに役立つ理論や着想なのだが、ニーズという言葉にその力がない。最近、そう感じる人も多いと思う。一体、誰のニーズなんだ?それがわからずに、ぐるぐると頭の中でペルソナが回る。

 この先、「ニーズを探り当てる」という発想から、未来のイノベーションは生まれてくるだろうか? 僕は懐疑的だ。これからの時代、もはやニーズの発想から革新的なプロダクトやサービスは生まれてこないのではないかと思っている。その理由を2つ述べる。