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田岡俊次の戦略目からウロコ

化学兵器の国際管理を受け入れ
急転するシリア情勢の次を読む

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第11回】 2013年10月3日
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シリアの化学兵器問題は、同国が化学兵器禁止条約に加入し、廃棄を受け入れたことで、事態は急転した。これに救われたのは米国のオバマ大統領だ。絶体絶命のピンチを首尾よく脱することができた。この案を提案したと言われるロシアも、オバマ大統領に恩を売ることができた、もっとも得をしたのはシリアのアサド大統領だ。いまや反政府軍の主力はイスラム過激派が占める。イスラム過激派を「共通の敵」として、それが入手した化学兵器を押収するために米、露、シリアが連合して戦う、という構図も生じかねない情勢となりつつあるからだ。そうなれば、次の焦点はイスラエルがどう動くかだ。

化学兵器の国際管理はシリアの発案?

 「急転直下」という表現がこれ程ぴたりと当てはまる事態が外交史上あったろうか。シリアの化学兵器問題は僅か1ヵ月で根本的な変換をとげた。シリアの首都ダマスカス近郊で化学兵器が使用された事件が8月21日に発生、28日にオバマ米大統領は「シリア政府が実行した」と断定、米軍は攻撃配置につき、2、3日中に開戦かと言われた。だが29日に英下院が軍事行動案を否決、31日にはオバマ大統領も「攻撃に議会の了承を求める」と発表した。米国世論には介入反対が多く、米下院でも反対多数の形成で、にわかに戦雲は遠のいた。

 米議会は休会開けの9月9日から攻撃の可否の審議に入るはずだったが、その日シリアのムアッリム外相がモスクワを訪れ、ロシアのラブロフ外相と会談、ラブロフ外相は「シリアに対し化学兵器の国際管理を提案した」と緊急声明を発表した。ムアッリム外相は会談後の共同記者会見で「その提案を歓迎する」と語った。

 アメリカでは9月9日にロンドンでの記者会見でケリー国務長官が「シリアが化学兵器をすべて国際管理に委ねれば米国の攻撃回避は可能。だがそんなことにはなるまい」と語ったのにロシア外相が飛び付き、ケリー長官に電話し米露外相会談が実現、シリアの化学兵器廃棄手順で合意した――との話が報じられる。だが、実際にはロシアとシリアの外相会談が9日に行われ、直後にシリア外相が化学兵器の国際管理案を「歓迎する」と記者会見で表明していたのだから、「ケリー国務長官の9日の発言にロシア外相が飛び付いて実現」とは全くのウソだ。ケリー長官は他人の手柄を横取りしたいのではないかと思われる。

 ロシアが化学兵器の国際管理を提案し、シリアが呑んだ、というロシア側の発表自体にも怪しい点がある。もしロシアが提案し、シリア側を説得するなら、ロシア外相がダマスカスを訪れ、決定権を持つアサド大統領らと会談する必要があったろう。また、もしモスクワを訪れたシリアの外相がロシアの提案を聞いたなら、本国に持ち帰り、アサド大統領や軍首脳らと共に検討して受諾するか否かを回答するというのが普通だ。外相が一存でその場でただちに受諾し、記者会見して「歓迎する」と言った、とは変だ。そう考えるとむしろこれはアサド大統領の発案かもしれない。シリアが単独で「化学兵器をすべて廃棄する」と発表しても「攻撃を免れるための一時的策略」と受け取られ、信頼性が低いから、ロシアが提案、シリアが受諾、の形にしてロシアを調停者か、保証人的な地位に置き、米国等と交渉してもらう方が効果がある。

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田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

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