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ニッポン 食の遺餐探訪

大根、ニンジン…に砂糖をまぶした江戸からの逸品
「野菜菓子」に見るレシピのない味の伝承

樋口直哉 [小説家・料理人]
【第12回】 2013年11月6日
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梅鉢屋の野菜菓子

 簡素な箱のなかに砂糖がまぶされた野菜が肩を寄せ合うようにして詰まっている。淡い野菜の色合いがきれいだ。

 『梅鉢屋』の野菜菓子はある日、仕事先でお茶請けとしてご馳走になった。

 大根の砂糖漬けを食べてみて、驚いた。食べる前は硬いドライフルーツのような味を想像していたのだ。それは裏切られた。砂糖は外皮だけで、噛むとかりっと割れ、内側はゼリー状で瑞々しい。たしかに甘いのだが、ちゃんと野菜の風味が残っている。

 そして、それが江戸時代から続くお菓子だと聞いて、2度、驚かされた。『江戸の頃より「砂糖漬」の名で人々に親しまれました』とホームページにはある。野菜をつかったお菓子やデザートはこのところすっかり定着したが、江戸時代からあったとは知らなかった。

 『梅鉢屋』は墨田区、京成押上線『京成曳舟』駅から歩いて15分程度の場所にある老舗である。早速、訪れると、三代目で代表の丸山壮伊知さんが快く出迎えてくれた。

江戸時代から続く砂糖漬け
野菜の変化とともに製法も変化

 お店の茶寮で話を伺わせていただいく。いかにも実直そうな人柄の丸山さんは、とても丁寧な口調で話をする。

──砂糖漬けはヨーロッパでも見られる技法ですが、それとは味が違うことに驚きました。

「そうですね。砂糖漬けのお菓子は世界各国に見られますが、使う材料はフルーツが多く、砂糖で水分を抜くのも保存のためで、日本の砂糖漬けとは違いますね」

──どうして、日本ではフルーツではなく野菜が使われたんでしょうか?

「推測の域を出ませんが、当時の日本には果物は柿や紀伊国屋文左衛門の話で有名なミカンくらいで、それほど種類がなかった。それで身近に手に入る野菜で砂糖漬けをつくりはじめた、というところだと思います」

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樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


ニッポン 食の遺餐探訪

和食を世界遺産に、という動きが農林水産省を中心にはじまっている。日本料理はここ十年余りの世界的な流行になり、外国の料理人の多くも関心を持っていて、誰もがそれを理解しようとしている。しかし、当の日本人の多くは日本料理を理解できていないのではないか。そこでこの連載では、日本の食を支えている道具や食材をつくっている生産者、職人を訪れて、私たち日本人が知らない日本の“食の遺餐”を紹介していく。 

「ニッポン 食の遺餐探訪」

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