今回からは、海外、特にインド、タイ、ベトナム、中国、台湾など、アジア各国のモバイル・マーケティングの今を見ていきたいと思う。アジアと言っても、決して一括りにはできず、国によってさまざま。通信環境の違いや文化的背景など国ごとの市場特性がある。特にモバイルビジネスは通信ネットワーク環境や端末の普及度合い、ユーザーの利用動向によって大きく左右されるが、そういった違いを理解しながらモバイル・マーケティングを考えていかなければならない。

 アジアだけの特徴ではないが、日本以上にメディア、ツールとしての可能性があるのがモバイル。日本では全国に配布される新聞、どこにいてもほぼ同じテレビ番組を見られるテレビ放送、ほぼすべての家庭やオフィスに設置されている固定電話など、メディア、ツールが非常に普及しているわけだが、世界に目を向ければ、このような情報の均一性を担保されている国はほとんどなく、一番普及しているメディア、ツールがモバイルなのだ。

 ITU(国際電気通信連合)の2013年2月のリリースでは、世界人口70億人に対して、携帯電話の契約数は68億、普及率は96%となっている。同リリースではパソコンについては世帯普及率のみ発表しているが、こちらは41%となっている。携帯ユーザーの複数SIM保有の影響を考慮しても、普及度合いについては、モバイルに軍配が上がるだろう。

ここ数年の間に、インドでも大きな変革が起こり始めている

 3Gネットワークとスマートフォンが普及し始めたインドではここ2~3年で、モバイル・マーケティングの状況は大きく様変わりしたようだ。ほんの数年前までは、モバイルデバイスと言えば、フィーチャーフォンが中心。ノキア端末が絶対的優位にあり、使い道はもっぱら音声とSMS(ショートメッセージ)。識字率の問題もあって、モバイル広告も音声広告かSMS広告が主流であった。IVR(自動音声応答システム)を使い、音声だけで広告を聞かせるというのは、日本ではちょっと想像がしにくいことだろう。

 しかし、そうした姿も、スマートフォンの普及により変わりつつある。インドには現在16の携帯電話通信事業者があり、せめぎ合っている。農村部では通話のみに特化したプリペイド型の携帯電話が普及し、モバイル広告も昔ながらのSMS配信やIVRを使った音声広告に限定されるが、デリーやムンバイなどのメトロエリアでは中高所得者層を中心に急速にスマートフォンが普及している。

 圧倒的なシェアを誇っていたノキアは第2位メーカーに地位を下げ、スマートフォンに軸足を移したサムスンが1位になった。また中国製の低価格スマートフォンが膨大な種類売られており、高所得層以外も手に入るようになってきている。それにあわせて、スマートフォンを活用した広告商品やキャンペーン事例も増えてきている。

 インドは多民族国家であるため、そこで話される言語は30以上にのぼり、方言も多い。公用語はヒンディー語だが、準公用語に位置付けられる英語のステイタスが高く、スマートフォンでインターネットを閲覧する層は、基本的に英語の話せる層に限定される。これはそのまま知識階級と見ることもでき、そうした点でも、スマートフォン・ユーザーのプロフィールの特異性がわかると思う。モバイル・マーケティングと一言で括っても、実際は国ごとに異なることがご理解いただけるのではないだろうか。