「公的機関が成果をあげるようにすることは容易でない。しかし、公的機関が成果をあげないようにすることは簡単である。6つの罪のうちどの2つを犯しても、成果は立ちどころにあがらなくなる。今日、公的機関の多くが6つの罪のすべてを犯しているが、その必要はない。2つで十分である」(『日本 成功の代償』)

 1980年、ドラッカーが「パブリック・アドミニストレーション・レヴュー」誌に寄稿した論文である。『日本 成功の代償』に収載されているが、日本の公的機関についてだけ書いたものではない。世界中の公的機関が抱える問題を論じている。

 公的機関が成果を上げないようにするための第1の方法は、目的として、「保健」や「身体障害者福祉」などのあいまいなスローガンを掲げることである。

「この種のスローガンは、設立趣意書に書かれるだけの値打のものであり、いかなる趣旨のもとに設立したかは明らかにしても、いかなる成果をあげるべきかは明らかにしない」からである。

 第2の方法は、複数の事業に同時に取り組むことである。優先順位を決め、それに従うことを拒否することである。優先順位がなければ、努力は分散するだけとなる。

 第3の方法は、「肥満が美しい」とすることである。ドラッカーは痛烈である。「金で問題の解決を図ることは間違いだと言われる。だが頻繁に目にするのは、人手で解決を図ることである。人員過剰は資金過剰よりも始末に負えない」。

 第4の方法は、実験抜きに信念に基づいて活動することである。ドラッカーは、これは、「初めから大規模にやれ、改善はそれからだ」という、今日の公的機関に一般的に見られる態度だと指摘する。

 第5の方法は、経験から学ぼうとしないことである。つまり、何を期待するかを事前に検討することなく、したがって、「結果」を「期待」にフィードバックさせないことである。

 第6の方法は、何ものも廃棄しないことである。もちろん、この方法によれば、ほとんどただちに成果を上げなくなることができる。

「政府機関であれ民間機関であれ、公的機関はすべて不滅の存在と前提している。馬鹿げた前提である。そのような前提が、公的機関をして成果をあげなくさせている」(『日本 成功の代償』)