フロントの経験があるから、CFOをやれた

田中 日本では、CFOは経理部長の延長線上にある職務、いわゆる「集計屋さん」と考えられているフシもありますし、実際、そのような人がCFOになっているケースが多いと思います。日本では菅原さんのような戦略家としてのCFOがまだまだ少ないと思いますが、なぜでしょうか?

菅原 欧米でもCFOになるキャリアパスには色々なケースがあると思います。日本のようにファイナンシャル・コントローラーからファイナンシャル・ディレクターに昇格してCFOになるというパターンもありますし、監査法人から事業会社へ転職し、ファイナンシャル・コントローラーとなり、CFOへ昇格するというパターンも結構多いと思います。

保田 でも、そういうときは通常「外部から専門家を雇おうか」となることが多いですよね。そうならなかったのは、「まあ、たぶん大丈夫でしょう」という自負があったということですよね?

菅原 そうですね。基本的に当社は自前主義です。コンサルタント出身の人間も多いので、たとえば、社内で人事制度をつくろうとなったときも「じゃあ、制度設計やるか」といった感じで自分たちで考えて作りあげます。とりあえず本を徹底的に読み込めば基本的な知識は学べますし、その後は教科書どおりじゃなくても実態に即して、自分たちでオリジナルなものを作ればいいんじゃないかと考えています。もっとも、外部の協力者にお願いすべきところでは、きちんと外部パートナーさんにお仕事をお願いしていますよ。

保田 菅原さんのような方の場合、事業会社へ行こうと決断したとき、事業戦略をやりたいという考えがあったわけで、けっしてCFOをやりたいと思っていたわけじゃありませんよね?

菅原 そうです。数字を稼ぐフロントがやりたかったわけです。

保田 ということですよね。

菅原 フロントの経験を積みながら、ゼネラルマネジメントをやりたかったということですね。

保田 ということは、逆説的ですが、2004年に入社された後にひと通りのことを経験したので、「じゃあ、まあ、CFOをやってもいいか」という流れになったわけですよね。

菅原 そうです。

保田 ファイナンス戦略の裏側にある事業戦略をきちんと見てこられたからCFOができるというわけですね。

菅原 それはかなり大きいと思います。

保田 入社してすぐに、「じゃあ、菅原さん、CFOどうぞ」と言われていたら、Noだった可能性は?

菅原 たぶん、そう言われていたら、「嫌だ」と答えたと思いますね(笑)。

保田 でも、その方が正しい気もするなあ。

田中 私も本来、CFOというのは戦略家だと思うんです。やはり集計屋さんが圧倒的に多くて、戦略家としてのCFOが少ないんですが、きっとそのあたりに戦略家としてのCFOを増やしていくための施策があるように感じています。

菅原 「CFOとは、こうあるべき」といった具合に定義が明確になっている会社は、それほど多くないと思うんですね。実際には、いろいろなタイプのCFOが存在しています。純粋にファイナンシャル・コントローラーの延長線上の経理・財務を見ているだけのCFO。管理会計や財務に関するデータをベースにどう戦略をつくっていくかという経営企画までやる、つまり、事業戦略とファイナンス戦略をつなぐCFO。さらにもっと広く、経営企画・経営管理部門のすべてを管轄するというCFOもいます。私は最後のタイプなんですね。これは、当社の規模がまだ小さいからできるんですが、私は、コーポレート本部と当社が呼んでいる管理系の部門全体の管掌取締役になっています。そういう意味では、集計屋さんの延長線上のCFOでは、当社のようなベンチャー企業のCFOは務まらないと思います。

田中 ベンチャー企業のCFOは、資金調達は当たり前ですが、日々のトラブルシューティングから飲み会のアレンジに至るまで、ありとあらゆることをやらないと話になりませんものね。

菅原 そうです。ただ、当社も約300人以上の社員を抱えるようになり、残念ながら、もはや以前に比べるとベンチャーっぽさを失いつつあるんですね。そこで、いま私は、いかに当社の企業風土にベンチャーらしさを取り戻すかというプロジェクトを推進しています。

田中 それは社内プロジェクトとして進めているんですか?

菅原 はい。当社が引っ越して新たに入居したビルは、今でこそ地味なイメージになっていますが、私が若い頃は名だたる外資系金融がオフィスを構えていて、憧れのビルでした。ある意味、このビルにオフィスを構えること自体が、もはや“どベンチャー”ではなくなってしまっているんですね。東証マザーズから東証一部に上がった後に入社している社員もいて、創業当時のベンチャー・スピリッツ溢れる雰囲気を知らない社員もいるんです。

次回は12月11日更新予定です。


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