社会派ブロガー・ちきりんさんと堀江貴文さんのスペシャル対談は、伝えることのむずかしさから、両親の話題へと進んでいきます。還暦祝いに「赤いマーチ」をプレゼントしてほしいとねだった堀江さんの母親の話に、ちきりんさんは涙しそうになったそうです。それはいったいなぜなのか? テーマはさらに、自立の大切さ、そしてお互いが理想とする「生き方」の話へ。一歩を踏み出せずに悩んでいる人、必読です!(写真:平岩紗希)

「赤いマーチ」が欲しかった
母のほんとうの思い

ちきりん 私が『ゼロ』を読んで、いちばん“じーん”ときたのは、お母様の話でした。

堀江 ええ。

ちきりん 堀江さんがお忙しいときに電話をかけてきて、「車が古くなってきたから、つぎはマーチにしたい」とか「還暦だから赤がいいんじゃないか」って……。

堀江 そうそう、そうなんです。

ちきりん
関西出身。バブル最盛期に証券会社で働く。その後、米国留学を経て外資系企業に勤務。2010年末に早期リタイヤ後は、「働かない生活」を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50ヵ国を旅している。2005年から書き始めた「Chikirinの日記」は、政治・経済からメディア、世代論まで、幅広いテーマを独自の切り口で語り、現在、日本で最も多くの支持を得るブログとなっている。著書に『ゆるく考えよう』『自分のアタマで考えよう』『未来の働き方を考えよう』など。

ちきりん しかもはっきりと「還暦祝いに赤いマーチを買ってほしい」って言わないもんだから、堀江さんが「はあ?」って感じの応答をしてたら、いきなり電話をガチャ切りされたんですよね?

堀江 よくガチャ切りされてます。あっちからかけてきてるのに、わけわからないですよ。そんなにマーチが欲しいのなら、ストレートに言えばいいのに……。ほんとうに、面倒くさい親なんです。

ちきりん でも私、堀江さんのお母様の気持ち、すごくよくわかりますよ。だって、お母様が本当に欲しいと思われたものは、赤いマーチでさえないんですよね。

堀江 えっ、そうなんですか?

ちきりん そうですよ。お母さんが欲しかったのは単なる車じゃなくて、「私にはこんなにすばらしい息子がいる」って一目で皆に伝えられる“あまりにもわかりやすい証拠”だったんです。地方って、どこに行くにもクルマでしょ。60歳になって真っ赤な新車に乗っていたら、みんな必ず「そのクルマどうしたの?」って聞いてくれます。そのときに、「これ、息子からの還暦祝いなのよ」って言えることが、母親としてめちゃくちゃ幸せなんです。

堀江 ああ。

ちきりん 「息子からもらった赤いマーチ」によって、5つくらいのメッセージが同時に、しかも瞬時に伝えられるでしょ。うちの息子は親に車をプレゼントできるくらい経済的に成功している。もちろん、お金があるだけじゃなく、やさしくて母親思いだ。こうして生活に役立つものを買ってくれるってことは、たとえほとんど地元に戻って来なくても、ここでの私の生活も理解してくれてる。そしてなにより、「こんな立派な息子を生み育てた私の人生は大成功だった」ってことを、その車一台で、周りの人に一瞬にして伝えられる。

堀江 ……。

ちきりん まさか堀江さん、お母様がほんとうにマーチが欲しいんだと思ってました?

堀江 やあー、僕、そこまで思いつかなかったなあ。

ちきりん だから“赤い”マーチなんですよ。白じゃ、買い替えたことに気づかない人も出るから、自分から言わなくちゃいけなくなるでしょ。

堀江 ああ、なるほど。古くなってきたから買い替えたいし、還暦だから赤なんだと、そのまんま受け止めてました……。

ちきりん 全然わかってないですねー(笑)。お母様が得たいと思われたのは、私はこんなすばらしい子どもを育てあげたという、母親としての人生への肯定感だと思います。

堀江 ああ、そうなのかあー。いやー、ほんと、全然気づかなかったです。……ちきりんさん、すごいですね。