なぜITサービス事業者の東京への集約化が進むのか

「またか」

 IT業界で働く大阪在住の友人から「また、同期が東京方面に転勤した」と言われたときの筆者の感想である。IT業界では、今、何が起こっているのだろうか。

 2013年11月、国内IT業界最大手の1社であるNECが、国内のソフトウェア子会社7社を再編し、合併する新会社を14年4月1日付けで発足させると発表した。新会社は、従業員1万人を超える国内でも有数のITソリューション企業となる。

 このような地域IT子会社を再編成する動きは、NECだけの動きではない。国内最大手である富士通も2011年に同様の地域IT子会社を統合している。近年、IT業界では、子会社統合を含めて、M&Aが盛んになり、事業の集約化が進んでいる。少し前のデータではあるが、福島大学の藤本典嗣准教授の研究によると、情報通信業の上場企業の83.1%(130社中108社)が東京を中心とする京浜葉圏に立地しているという。つまり、集約化とは、IT企業の首都圏への集中ともいえるだろう。

 IT企業がこうした事業戦略を採用する背景の1つに、バブル崩壊以降の日本経済の停滞のなかで、効率を求める多くの国内企業が首都圏への一極集中を進めたことがあげられる。従来から、大規模なITシステムを必要としていたメガバンク、大手証券、通信産業や中央省庁に加えて、グローバル製造業、大手流通サービス業といった企業が本社機能を首都圏に集約していった。

 その結果、本社機能を支える情報システム部門も首都圏へと移動していくことになる。多額のIT予算を持つ企業や官庁が首都圏に集中してしまったのだ。IT事業者にとって、経営戦略上、これらの顧客から、ビジネスを獲得するためには、地域子会社を統合するなど、首都圏を中心に事業を集約化していかざるをえなくなったのだ。

 これには、IT産業特有の構造もある。IT産業を構成する事業には、コンピューターやソフトウェアの開発・販売といった業界外の人にも理解しやすい事業の他に、システム提案、構築、運用を実施するシステムインテグレーション事業(SI事業)を中核とするITサービス事業がある。

 IDC Japanによれば、ITサービスは約5兆円の市場規模を持つ大きな産業でもある。SI事業の特徴は、エンジニアの人数が多いほど、売上高も大きいという構造を持つ労働集約型ビジネスである。そして、大規模ITシステムを構築するには、一度に大量のエンジニアを投入できる人的リソースが必要である。