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「会計&ファイナンス」 一流の経営者はどう使う?
【第7回】 2014年1月21日
著者・コラム紹介バックナンバー
田中慎一 [企業財務コンサルタント/株式会社インテグリティ・パートナーズ代表取締役],保田隆明 [神戸大学大学院経営学研究科准教授、昭和女子大学非常勤講師]

第1話 ファイナンスの実務は日産で学んだ

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リスクとリターンの関係は、
ファイナンスだけでなく、人生のエッセンス

田中 ビジネススクールでのファイナンスの授業は、どんな感じでしたか? また、MBA取得後に現場へ戻られ、さらに、経営者を経験される過程で、ビジネススクールでファイナンスを学んだことがどのように実務で役に立ちましたか? 

岩田 ファイナンスの最初の授業に出てくるリスクとリターンの関係がシンプルで、とてもすんなり腑に落ちました。要するに、リスクが大きくなったらリターンが大きくないといけないという、あのグラフはすごく印象的でした。言われてみれば当然のことですが、それが座標上に線一本で表現されているのですから素晴らしいですね。
 それから、ファイナンスの世界では、リスクとはボラティリティである、と定義しています。つまり、バラツキです。リスクはネガティブでマイナスのことであると誤解されていますが、プラスもマイナスも両方を見るのがリスクです。この「リスクはボラティリティである」という考え方がファイナンスの基本中の基本。すべてのファイナンス理論はここをベースに組み立てられていますから、この大前提を理解することがファイナンスを理解することにつながります。

        参考:リスクと期待リターンのイメージ

田中 おっしゃるとおりですね。

岩田 このファイナンス理論の基本は、いろんなビジネスだけでなく、日常の生活においても生かせる考え方だと思っています。ファイナンスに限らず人生のエッセンスといえるでしょう。だから、ファイナンスの教科書はおもしろかったですね。ただ、ある時点を過ぎてくると、結構ややこしくなってきます。そこから先は、そんなに役に立つとは思えませんでした。

ビジネススクールの知識はそのまま実務に生かせた

田中 ビジネススクールから現場に戻ってからは、勉強したことが生かせましたか? 

岩田 もともと私は購買畑だったのですが、帰国後に社内公募制度を使って財務部門に移り資金調達に関わることになりました。普通は逆のパターンはあっても途中で財務部門に異動するのは、珍しいパターンでしたね。余談になりますが、社会人になりたての若い頃、大企業の課長とかになると、窓際のひな壇に席があって、出社したら庶務の人にお茶を入れてもらって、朝から新聞を読んでのんびりしているという牧歌的な風景をイメージしていました。それがもうすごく憧れだったんです(笑)。それが財務部門に移ったら、まさに仕事だから、課長でなくも日経新聞や産業新聞などを堂々と読める。会社の就業時間内に新聞が読めるという憧れが実現できて、すごくうれしかった記憶がありますね。

田中 いまお聞きするとずいぶん意外ですね(笑)

岩田 まじめな話もすると、当時は、日産にはグループ全体で3兆円の有利子負債がありましたから、財務部では非常にダイナミックな仕事ができました。その中で600億円の社債調達があったり、想定元本3000億円の金利スワップがあったり。それから、格付け機関との交渉など、コーポレートファイナンスに関する戦略はひととおり全部やりました。会社の規模も大きいから、とても楽しかったですね。そういう意味では、ビジネススクールで勉強したことを存分に生かすことができました。
 当時は海外のMBAを持っている人たちもそんなに多くなかったので、自分の知識は取引銀行のバンカーと比べてもそん色ないくらいのレベルだったと思います。
 ただ、当時は今よりも銀行中心の間接金融の時代ですから、銀行との交渉や取引が多かったです。金利のスワップ取引でも、毎日銀行と電話して、だいたい良いレートを持ってくるのはA銀行なんですが、A銀行はメイン銀行ではないから、そちらとの交渉材料に使わせてもらう、とかですね(笑)。

保田 率直なお話をありがとうございます(笑)。ネット・プレゼント・バリュー(正味現在価値)といったファイナンスの概念も日産での実務では使われましたか?

岩田 ネット・プレゼント・バリューの考え方もやはりビジネスパーソンならば誰でも知っておかないといけませんね。あとは、アセット・ライアビリティ・マネージメント、いわゆるALMですよね。バランスシートの左(資産)と右(負債と資本)について、できるだけ流動部分と固定部分をバランスさせるような形がいいとビジネススクールで学んだので、そういうことは意識しながら財務戦略の提案を経営陣にしていました。

保田 経営陣とのやり取りはどのようなものでしたか?

岩田 私は、2年弱財務部門にいたんですが、その間、毎月一度、CFOと意見交換をしていました。私は金利担当だったのですが、金利の見通しやアメリカの景気見通しなどについて説明するわけです。こういう地道な活動を通じてCFOの信頼を得ていきました。これは経営陣へのプレゼンテーションではありましたが、むしろ、自分にとって非常に勉強になりました。日産の財務部門では本当におもしろい仕事ができたと感じています。

田中 岩田さんは、ビジネススクールで学んだことを実際の現場で生かすことができたという充実感を味わえたわけですね?

岩田 本当にそうですね。

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    田中慎一(たなか・しんいち) [企業財務コンサルタント/株式会社インテグリティ・パートナーズ代表取締役]

    1972年生まれ。大学卒業後、監査法人太田昭和センチュリー(現あずさ監査法人)、大和証券SMBC、UBS証券などを経て独立。監査法人で上場企業の会計監査、IPO支援やデューデリジェンス業務、証券会社の投資銀行部門ではM&A、事業再生、資金調達に関するアドバイザリーサービスに従事。現在は、財務戦略に関するコンサルティングサービスを提供するほか、ベンチャー企業・中小オーナー企業の社外役員を務める。著書に『M&A時代 企業価値のホントの考え方』『投資事業組合とは何か』『あわせて学ぶ 会計&ファイナンス入門講座 』(いずれもダイヤモンド社)などがある。趣味は料理とトライアスロン。

    保田隆明 [神戸大学大学院経営学研究科准教授、昭和女子大学非常勤講師]

    1974年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科准教授、昭和女子大学非常勤講師。リーマン・ブラザーズ証券(東京/ニューヨーク)、UBS証券東京支店で投資銀行業務に携わる。その後、起業、投資ファンド運用等を経て、10年より小樽商科大学大学院准教授、14年より昭和女子大学准教授、2015年9月より現職。雑誌、テレビや講演で金融・経済をわかりやすく解説する。著書は「あわせて学ぶ会計&ファイナンス入門講座」「実況LIVE 企業ファイナンス入門講座」(ともにダイヤモンド社)ほか多数。早大院商学研究科博士後期課程満期退学。
    保田氏ブログ

     


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