田舎で暮らすと、
「つながり」の大切さに気づく

馬場 それにしても、移住に関しては、奥様と意見が合っているんですね。夫婦でも、意見が分かれることもあるけれど。

鈴木 僕の周りでよくあるケースは、奥さんが行きたがるのに、旦那さんが反対するというものですね。仕事や教育を考えて都心にいたいという旦那さんに対し、奥さんは田舎で思う存分遊ばせたいとか、環境のいい場所で子育てしたいと望むとか。

「生きる力」を取り戻す!<br />よりよく生きるための「田舎暮らし」のすすめ<br />【馬場未織×鈴木菜央対談】馬場未織さん

馬場 若い時の暮らしだとそうかな。でも年を重ねると、子どもの教育関係もなくなるし、都心で働く必要もなくなるので、旦那さんのほうが大自然の中で暮らしたいと言い出し、奥さんが「わたしは便利な都心で暮らしたいのに!」といやがるという話はほうぼうで聞きます(笑)。

鈴木 馬場さんは、どうやって夫婦の意見の相違をチューニングしたんですか? こういうことがやりたいんだよねということを共有したり、具体的な話し合いをしたんですか?

馬場 “した”という過去形ではなく、今も毎日チューニングしています(笑)。うちは、夫婦ともに平日の仕事は東京でしていて、子どもたちの学校生活も東京で送っている。しかも、東京では夫の親と同居しているという現実がある。だからこそ、移住は“憧れ”という面はあります。

鈴木 移住という形をとっていなくても、馬場さんは僕らより、“自然とつながる暮らし”をしていると思いますよ。何しろ僕らはまだ賃貸ですし。そろそろ持ち家にしなきゃとは思いつつ。もしかしたら移住して「ずっと田舎にいられる」ことで、ありがたみが失われている面はあるかもしれない。でもやっぱり、移住して気づいたことは多いです。

 例えば、人とのつながり。都会では隣近所とのつながりが希薄になりがちだと思います。いすみでの暮らしの中では、コンビニまで車で10分弱など、都会の感覚では便利とは言えない環境があるので、「お醤油が切れた」となれば、「お隣さんにちょっと貸してもらう」ということが当たり前になる。「不便さ」を補う「つながり」ができるんです。

馬場 人間関係の兼ね合いのようなものは都会のほうが多いけれど、つながりを意識するのは田舎暮らしのほうですよね。私も農業をする中で、土地とのつながりが深くなっていると実感します。人間だけでなく、場所そのものであったり、生きものであったり、つながりの範囲も広いですね。

鈴木 僕も太陽光発電システムを自作したり、薪ストーブやロケットストーブを使い始めたりとDIYをする中で、ますますつながりが大事だなと思うことはあります。薪ストーブだって、使い始めると薪を拾うか買うかしなければならない。自分で1年分の薪を確保するためには、ものすごい大金を積んで買うか、山を所有して管理しなければならない。

 でもコミュニティーに入っていると、「○○さんの家で山をちょっときれいにしたいと言っている」というメールが回ってきたりする。そうしたら、初心者の僕も含め、地域の先輩たちとチェーンソーで木を切って集めて、なんとなく人数分で割って持って帰る……ということになる。それがきっかけでまた、地元の人たちと薪ストーブの横で酒を飲んで話し込んだりする。暮らしを通して自然とも、みんなともつながっていけるんですよね。それが楽しい。

「生きる力」を取り戻す!<br />よりよく生きるための「田舎暮らし」のすすめ<br />【馬場未織×鈴木菜央対談】週末は田舎暮らし』(馬場未織・著)

馬場 そう。「お互い様」「持ちつ持たれつ」という言葉の意味をかみしめることが多いですね。『週末は田舎暮らし』で書きましたが、農家の免許を取るために周りの人にすごく支えてもらいましたし、草刈り一つとっても、周りの方の支えがないとできなかったと強く感じています。

鈴木 そういうつながりが大切ですよね。もちろん、どんな地域での暮らしも、物事は単純じゃないし、いい面もあれば大変な面もあります。みんなが一様に一つの意見を持っているわけではなく、移住先でもその土地の人と、40年前に移住したのにいまだに新参者扱いの人、10年前に移住した人、そして自分たちのような移住素人がいて。

馬場 田舎にいると、冠婚葬祭での立ち居振る舞いとか、いろいろありますよね。わたしの暮らす地域では、移住した人たちは古いコミュニティにしっかりと馴染んでいくという例が多く見られる気がします。田舎の付き合いというのは生活の多くの時間を割かれるものだとみんなが口をそろえて言っていて、中にいる人たちもそれを自覚しながら担っている節がある。だから、時間をかけて、時代に合わせて合理的になっていく部分もあるんじゃないかなと思います。

 わたし自身は週末しかいない分際なので、まったくその大変さを共有できてはいないのですが、それでも居場所をあけてもらっていることがありがたくて、学びながら入らせてもらっているところなんですよ。大変さもあるだろうけど、中には必然もあるはずで、それが知りたいです。

鈴木 そういう意味では、僕らのエリアには新住民が多いので、町内会もパラレルになっていて、地元の町内会と新住民町内会があるところもあるそうです。僕ももっと地元に入り込みたくなってきています。