世界最強VCクライナー・パーキンズ・コーフィールド&バイヤーズ(KPCB)の敵はグーグル?――。

 今年初め、グーグルの慈善部門、グーグル・オルグによる環境技術ベンチャーへの投資が、VC業界にちょっとした波紋を投げかけた。

 というのも、KPCBが支援する太陽熱発電ベンチャー、オースラのライバルであるイー・ソラーとブライトソース・エナジーにそれぞれ、オルグの過去の投資実績としては最高額の部類に入る1000万ドルを出資したからだ。

 グーグルは、設立まもない1999年に、KPCBの出資を仰ぎ、そのパートナーのジョン・ドーア氏から経営の手ほどきを受けた恩がある。「慈善事業ならば、KPCBの支援先の敵にカネを突っ込むこともないのに」とVC関係者は口を揃える。

 むろんグーグルにKPCBと同じ土俵で戦っているつもりは毛頭ないだろう。8月には、KPCBの出資先である地熱発電ベンチャーのアルタロックに625万ドルを投資した。太陽熱発電と地熱発電はそもそもライバル。要するに、自然エネルギー分野全般に幅広くカネを張っていると考えるのが正しい。

 グーグルが自然エネルギーに熱を上げる理由は明白だ。世界各地でデータセンターを運営するグーグルにとって省エネ技術は、単なるCSR(社会的責任)にとどまらず、ふくれ上がる電力コスト削減の面からも、必須だ。この分野の技術革新に手を貸すことは、理にかなっているのである。

 同じ8月には、風力発電のマカニ・パワーに500万ドルを追加投資し(合計で1500万ドル)、地熱開発に必要な岩石掘削技術を開発しているポッター・ドリリングにも400万ドルを投じた。オルグ設立以来の投資総額は9500億ドル(8月時点)。うち3割強が自然エネルギー分野につぎ込まれた計算だ。

 グーグルの環境投資の背景には、創業者の二人、セルゲイ・ブリン氏とラリー・ペイジ氏の積極的な関与があるといわれる。両氏は電気自動車メーカーのテスラ・モーターなど複数の環境技術ベンチャーに個人資産を投じていることでも知られる。

 2007年には二人の主唱で、マウンテンビューにあるグーグル本社の屋根一面に太陽光システムが整備された。いまや本社の電力の3割(ピーク時)は太陽光で賄われているうえ、本社駐車場には電気自動車用の充電スタンドまである。

 「サンフランシスコをカバーできる規模の電力を石炭よりも安く発電する」というのがグーグルの当面の目標だ。環境問題をCSRに閉じ込めがちな日本企業と違って、言うこともケタ違いである。

(ダイヤモンド・オンライン副編集長 麻生祐司)

環境フロンティア2009