3月11日の金融政策決定会合後の記者会見で、日銀の黒田東彦総裁は、追加緩和策の必要性は今はないことを改めて強調した。
2013年度の成長率は日銀予想を下回りそうだが、日銀は「前向きな循環メカニズムは働いている」とアピールしている。失業率は構造的失業率(3%台半ば)に近い3.7%に下がっており、いずれ人手不足が物価を押し上げ、2%のインフレは15年度中に達成されるという。とはいえ、現時点の物価上昇は「よいインフレ」とはまだ見なせない。円安によるコストプッシュ型だからである。
1月の消費者物価前年比を米、独、日で比較してみよう。総合指数はそれぞれ+1.6%、+1.2%、+1.4%。うち、賃金の上昇が反映されやすいサービス価格は、米+2.4%、独+1.4%だが、日本は+0.5%で、公共サービスを除くと+0.1%にとどまる。他方、エネルギーは米+2.1%、独▲1.7%、日本+6.9%。嬉しくない上昇だ。
パーソナルコンピュータは、日本では+13.9%(デスクトップ型とノート型の加重平均)と大きく値上がりしている。だが、米は▲7.2%、独は▲10.8%(ノート型)と大幅下落だ。テレビも日本は+3.7%だが、米は▲13.5%、独は▲7.8%。電話機等は日本+7.4%で、米は▲4.8%、独は▲2.1%。IT機器の値崩れは世界的にまだ続いているのだが、日本では円安でそれが感じられない。
大手家電メーカーの幹部に話を聞くと、今や工場だけでなく開発部隊も日本にいないので、円安だからといって生産現場を急に日本に戻すことは困難だという。昨年7~9月の国際協力銀行の調査によると、日本企業の12年度の海外生産比率は33%。16年度は39%に引き上げる計画だそうだ。