悪質クレーマーに毅然とした態度をとることは難しいが……

 そして翌日、老人に電話をかけました。
「大変申し訳ありませんが、商品を交換したことで誠意を尽くしていると思います。一応、地元の警察にも相談しました。これ以上、高圧的な態度をとられるのであれば、弁護士に相談して法的な対応も考えます」

 一瞬の沈黙のあと、老人のかすれた声が聞こえてきました。
「もうええ。なかったことにしてやるわ」

 悪質クレーマーに対しては、毅然とした態度で臨まなければならない――。

 これに異論をはさむ人はいないでしょう。

 しかし、クレームの現場で毅然とするのは決して容易なことではありません。私はこの老人に小突かれたとき、転職したことを後悔しながら、警察官時代の一コマを思い出していました。民間企業から相談を受けたときのことです。

「『料理に異物が入っていて歯が欠けた!』と、因縁をつけられています。どうも、タチのよくない輩のようなんです」
「それは大変ですね、それでどんな要求をしていますか?」
「まだ、具体的な要求はしてきません。『どうしてくれる、どう責任をとるんだ!』の一点張りです。『異物は飲み込んだ。調べたいならトイレに一緒に入って調べてみろ』と言うんです。どうすればいいんでしょうか?」

 私はこう答えました。
「具体的な要求がないと、まだ恐喝とはいえませんね。でも、不当な要求があれば、断固として拒否してください」

 クレーマーを前に進退窮まる私が、かつてこんなアドバイスをしていたのです。