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弁護士・永沢徹 企業乱世を読み解く

実務の手足を縛った村上ファンド一審判決
二審でようやく「インサイダー範囲」が適正に

――注目すべきは「村上被告の量刑」よりも「判断基準の修正」

永沢 徹 [弁護士]
【第57回】 2009年2月6日
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 元村上ファンド代表・村上世彰氏が、ニッポン放送株を巡るインサイダー取引事件により証券取引法違反の容疑で逮捕されたのは2006年6月。それから2年半が経った今月3日、その控訴審(二審)判決が東京高裁で出された。東京高裁は、2007年7月に出された一審判決を破棄。懲役2年としたものの、3年の執行猶予をつけた(罰金300万円、追徴金11億4900万円は、一審と同額)。

 今回の二審判決では、執行猶予がついたことにより、村上被告の「量刑」ばかりが注目されてしまっているが、この判決で最も注目すべきであったのは、インサイダーかどうかを判断するうえでの「重要事実の判断基準」(どのような情報が、インサイダー取引に抵触する情報となるのか)が修正されたことにある。今後のインサイダー摘発のゆくえを占ううえで、非常に重要な判決だったのである。

 というのも、一審判決で出された「重要事実の判断基準」は、無用にインサイダーの範囲を拡げてしまったとして、内外から多く問題視されていたからだ。

可能性がゼロでなければクロ?
無用に拡げられたインサイダーの範囲

 一審で出された「重要事実の判断基準」というのはこうだ――(株価に影響を与える需要事実の)『実現可能性があれば足り、可能性の高低は問題とならない』。つまりこれは、“可能性がゼロでなければインサイダーになる”ということであり、インサイダーのハードルを非常に低くしてしまったといえる。

 この一審判決が出るまで、インサイダー取引にあたっては、次の判例が基準となっていた。平成11年に最高裁が下した「日本織物加工株インサイダー事件」の判例である。この事件は、親会社による子会社(日本織物加工)の売却交渉をめぐり、交渉相手企業の担当弁護士がインサイダーに問われ、有罪となった事件である。このときの判決で最高裁は、インサイダー適用基準において、「(重要事実の決定が)確実に実行されるであろうとの予測が成り立つことは必要ない」としている。

 この最高裁判決を受けて、村上ファンドの一審判決が出されたといわれているが、そのレベルには雲泥の差があった。上記最高裁判決では、必ずしも確実に実行されるという予測の成立は要しないとしながらも、村上ファンド一審判決のように、可能性がゼロでなければ何でもいいといっているわけではない。大切なのは、投資家の判断に影響を及ぼすようなそれ相応の実現可能性があったかどうかということであり、上記日本織物加工事件では、買収会社の代表取締役の意思が固まっていたことからその実現可能性が非常に高いと認められたため、被告人は有罪となったのである。

 そして今回、この最高裁判決に立ち返る形で、二審判決で「重要事実の判断基準」が修正されたことになる。その判断基準について、裁判長は次のように述べている。

 「重要事実にあたるかどうかは、企業の計画や対外交渉などの状況を総合的に検討し、個別具体的に判断すべきであり、投資家の判断に影響を及ぼす程度の相応の実現可能性が必要である」

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永沢 徹 [弁護士]

1959年栃木県生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験合格。卒業後の84年、弁護士登録。95年、永沢法律事務所(現永沢総合法律事務所)を設立。M&Aのエキスパートとして数多くの案件に関わる。著書は「大買収時代」(光文社)など多数。永沢総合法律事務所ホームページ


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