今回は、あるコンビニエンスストアで筆者が目撃した、暴力事件を紹介しよう。女性の客から罵倒され、胸ぐらをつかまれ、足を蹴られ、負傷するアルバイトの店員がいた。

 この30代前半と思える男性は、そのとき限りなく無抵抗だった。暴力をふるい続ける30代後半に見える女性に、ひらすらお詫びをしていた。もう1人の男性店員も、うろたえるだけだった。2人は自ら警察に通報しようとせず、結局見かねた筆者が通報することになった。

 それを機に、筆者はこのアルバイトの男性と話をするようになった。彼の話からは、すでに30代になりながら企業に正社員として就職できず、アルバイトで低収入の日々を送る「生活苦」の現状が浮かび上がった。言わば彼は、これまで連載で紹介してきたような「悶える職場」以前のところで喘いでいるのだが、不満の声すら上げることができない。

 見ず知らずの女性客にまで殴られ、軽くあしらわれながらも、生活のために無抵抗を続けるしかないアルバイト社員は、なぜこのような境遇に陥ってしまったのか。彼はこうした「究極の悶える職場」から再起を図ることはできないのだろうか。男性への取材を基に、「格差社会」の現状と課題を筆者なりに分析してみたい。読者諸氏も、一緒に考えてみてほしい。


「女だからってなめるな! 土下座しろ」
筆者が目撃したあるコンビニの暴力事件

「女だと思って、なめているだろう? 土下座しろよ。この野郎!」

 昨年12月、JR中央線のA駅南口から徒歩数分の交差点の角にあるコンビニエンスストアで、暴力事件が起きた。店内の隅々まで響く声を出していたのは、30代後半くらいの女性だった。

 顔は面長で、目鼻はモデルのようにはっきりとしている。化粧は比較的、濃い。靴は黒いヒールだった。背は、165センチ前後と長身の部類に入る。