もしも、こんなことが国の医療制度として認められるとしたら、あなたはどう思うだろうか。

 がんを患っているAさんは、ある日のこと、患者仲間のあいだで噂になっている○×クリニックの門を叩いた。そこでは健康保険の効く標準治療と並行しながら、B医師が編み出した「水療法」を行ってくれるというのだ。

 説明を聞いてみると、水療法とはB医師が考案したもので、『魔法水』という特殊な水を、彼が独自に決めた基準で飲み続けるというものだった。

 B医師「魔法水は、私しか入手できない特殊な水です。抗がん剤治療と並行して、魔法水を毎日1リットルずつ飲み続けるとがんが消えます。1リットル5万円。1ヵ月分だと約150万円になります。でも、これでがんが治れば安いものですよね。どうされますか?」

 そういうと、B医師はAさんの目の前に1枚の契約書を差し出した。

 そこには、Aさんのがんには「水療法の必要性があること」、ただし、「ケースによっては、魔法水の効果が出ないこともあるが、一切の責任は治療を受けることを納得したAさんにある」といったことが書かれていた。

 魔法水の効果はいまだ研究段階で、安全性や治癒率などを示す客観的なデータはない。だが、藁にもすがる思いのAさんは、医師の言葉を信じて契約書にサインをした。

 それから1年後。B医師の言う通りに魔法水を飲み続けたにもかかわらず、Aさんのがんが消えることはなく、帰らぬ人となった。

 Aさんが1年間に魔法水に支払った費用は1800万円にも上った。家族は裁判に訴えようとしたが、B医師は契約書を楯に「Aさんは自己責任で治療法を選んだのです」と自分には一切責任がないという。結局、Aさんの家族は泣き寝入りするしかなかった。