「いや、自分のことは自分が一番よく知っている」。他者のフィードバックを受けた時に、つい思ってしまうことの1つだ。しかし脳の機能から言えば、これは間違っているという。自分の弱点を正しく把握するには、他者の評価が絶対に必要である理由を筆者が説明する。


 あなたがいまよりもっと成功したいなら、その目標が何であれ、自分自身と自分のスキルを知る必要がある。目標に到達できなかった時は、その理由を知る必要がある。それは問題なくできるはずだ――結局、あなたのことはあなた自身が最もよく知っているはずなのだから。

 しかし、あなたの個人的資質――柔軟性や真面目さ、衝動性など――に関する自己評価と、(あなたをよく知る)他人から見た印象を比べた場合、その相関係数は0.40程度しかない。つまり、自己評価と他者の見方はあまり一致しないのである。

 正しいのはどちらだろうか。あなたのことをよく知っているのは、あなた自身なのか、他者なのか。研究によれば、正解は後者である。概してあなたの行動をより正確に予測できるのは、あなた自身ではなく他者のほうなのだ。

 実際には、私たちは自分が考えているほど自分自身をわかってはいない。パフォーマンスについて言えば、私たちが驚くほど自分のことを知らないために、自分がどこで正しい道を選び、どこで間違ったかを理解することすら難しい。

 この問題の原因は、人間の脳そのものにある。脳は実にさまざまな活動を行っているが、自分の脳だからといって、それが何をやっているかがわかるとは限らないのだ。

 心理学者のティモシー・ウィルソンは、名著『自分を知り、自分を変える』(邦訳2005年、新曜社)において、彼が「適応的無意識(adaptive unconscious)」と呼ぶものに関する数十年にわたる研究をまとめている。

 それによれば、私たちが日々刻々行っていること(思考や感情、追求している目標、行動など)の大部分は、無意識下で起きているという。それらの一部は内省を行うことで認識できるが、そうでない部分の方が大きい――自分のすべての行動を、はっきり認識することはできないのだ。

 なぜ脳はそのように機能するのだろうか。そのほうがはるかに効率的だから、というのが答えだろう。

 私はよく次のような例えを用いて説明する。無意識の処理能力がNASAのスーパーコンピューター並みだとすると、意識の能力は付箋紙1枚の内容程度しか扱うことができない。意識の能力は限られており、処理も遅いので、あまり負担をかけると取りこぼしが生じてしまう。

 もし私たちがあらゆることを意識してやらなければならないとすると、呼吸を忘れずにしたり、つまずかずに歩行したりするだけで精一杯となり、大した仕事はできなくなってしまうだろう。多くの作業を――目標の追求といった高度で複雑な仕事も含め――無意識に任せることによって、私たちは生産性を実現しているのである。

 これにはもちろん困った面もある。何かがうまくいかない時、その原因を知るのが難しいのだ。自分のやっていることを最初から完全に意識しているわけではないからである。

 さながら古典的な殺人ミステリーのようだ。床に死体が横たわっており、刑事は現場で何があったのかを解き明かさなければならない。殺人が行われた時は遠く離れた場所にいたのに、容疑者を割り出し、証拠を吟味して、犯人を見つけるという仕事を課せられる。