社会の進歩は、技術革新や新しいビジネスモデルによってもたらされる。それらの多くは、伝統的な企業の中から生まれるのではなく、新しく興された企業によってもたらされる。だから、起業の可能性が高まることは、社会の進歩にとって基本的に重要な意味を持つ。
ビットコインとその拡張技術は、さまざまな意味において、起業の可能性を増大させる。とりわけ、分散市場とDAC(Decentralized Autonomous Corporation=自動化された企業)がもたらしうるものは、きわめて大きい。
これらの大部分がまだ構想段階であり、現実には存在していないのは事実である。だから、「そんなことが実現できればすごいが、実現できないだろう」と考える人が多いかもしれない。
しかし、いま状況は急速に展開している。数ヵ月経っただけで、事態はかなり変わってしまっている。以下では、最近の動向を紹介することとしよう。
それに先立って、まず、これまでに存在する仕組みを見ておこう。第1は、起業のための資金調達、第2は予測マーケットである。
キックスターター:
注目を集めるクラウドファンディング
新事業の資金調達手段としては、現在、つぎのようなものがある。
第1は、IPO(新規株式公開)である。ただし、これには、コストがかかる。ツイッターは、IPOに6000万ドルもの費用を支払ったとされる。これは特別な例としても、IPOには巨額の費用が必要だ。
また、監督官庁による規制もある。審査のために膨大な資料を準備しなければならず、さまざまな点で監督官庁の指導に従わなければならない。
また、そもそもIPOは、非上場企業の事業が軌道に乗り、安定的な収益を上げられる見通しがたった後に行なうものである。ネットスケープは事業の目処がつかないうちにIPOを行なったが、これはまったくの例外だ。事業のアイディアだけでIPOすることは、普通はできない。
そこで、IPOが可能になる前の段階にある事業の資金調達が必要になる。IT革命で大きな役割を果たしたのは、ベンチャーキャピタルだ。アップル、ヤフーなど多くの企業が、これによって事業をスタートさせた。シリコンバレーのIT企業にとって、ベンチャーキャピタルは本質的な役割を果たした(拙著『アメリカ型成功者の物語』新潮文庫を参照)。
比較的最近行なわれるようになったものとして、クラウドファンディング(crowdfunding)がある。これは、インターネット上でアイディアを公開し、それに賛同する不特定多数の人々から比較的少額の資金を募るシステムだ。なかでも、2009年に設立された「キックスターター」(Kickstarter)が注目されている。
これは、クリエイティブなプロジェクトのためのクラウドファンディングだ。対象とするのは、新商品の開発、映画、音楽、演劇など。「インディゴーゴー」(indiegogo)も同様のサービスを提供している。商品化プロジェクトでは、商品化後に一般販売価格よりも低価格で入手できる。ただし、プロジェクトの所有権を主張することはできないし、コントロールもできない。
これまでは、個人のアイディアの商品化は難しかった。この仕組みを使うことで、大組織に属していなくとも、アイデアを実現することができるようになったと言われる。