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嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラー」の教え
【第10回】 2014年5月19日
著者・コラム紹介バックナンバー
岸見一郎 [哲学者]

「自分は変わりたい」と言う人が、
実は「変わらない」と決心をしているのはなぜか
宮台真司×神保哲生×岸見一郎 鼎談(後編)

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人はなぜ変わりたいのに変われないのか? その背景には、実は変わりたくないという自らの決意があるとアドラー心理学は喝破する。それはなぜなのか。昨今の若者に増えている「本当の自分・仮の自分」という意識の分析も交え、社会学者・宮台真司氏、ジャーナリスト・神保哲生氏、『嫌われる勇気』の著者・岸見一郎氏が熱く語り合う! インターネット放送番組「マル激トーク・オン・ディマンド」特別ダイジェスト版の後編を大公開!

人はなぜ不幸であることを
自ら選ぶのか?

神保『嫌われる勇気』は哲人と青年の対話という形を取っていますが、その最初のほうで「人は変われる」のだと哲人が断言するところがあります。それに対して青年が、変わりたくても変われない人がたくさんいると言う。すると哲人が、「変われないでいるのは、自らに対して『変わらない』という決心を下しているから」だと言うんですね。一生懸命変わらないと決心しているから変われないんだ、と。これはどういうことか教えて頂けますか。

岸見一郎(きしみ・いちろう)
哲学者。1956年京都生まれ、京都在住。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や古代哲学の執筆・講演活動、そして精神科医院などで多くの「青年」のカウンセリングを行う。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。訳書にアルフレッド・アドラーの『個人心理学講義』『人はなぜ神経症になるのか』、著書に『アドラー心理学入門』など多数。古賀史健氏との共著『嫌われる勇気』では原案を担当。

岸見 今とは違う自分になってしまうと何が起こるか予測できなくて怖いのです。だから変わりたいと言っている人は実は変わりたくない。変わってしまったら次の瞬間何が起こるかわからないので、不断に「私は変わらないでおこう」という決心をしているんです。もし変わりたいのであれば、変わらないでおこうという決心を解除する必要がある。そしてそれは非常に勇気がいることです。

神保 その変わらない決心というのは自覚的ではないのですか? 自分としては変わりたいなぁと思っているわけですから。

岸見 自覚的ではないでしょうね。そういうことを言われて生まれて初めて気づくかもしれない。「あなたは変わりたくないんですね?」と言われて、「あ、そうなんだ」と気づく人は気づきます。それでも気づかない人、あるいは気づきたくない人はいるかもしれません。

宮台 前回トラウマはあるのかという話になり、トラウマのせいで自分にはできないのだと免罪をする癖を問題にしました。トラウマを持ち出す人は、そのことによって「自分が本当の自分だと思っているもの」を擁護し、「自分は変わりたくない」と宣言しているのだ、と。
 僕は札幌を中心に久しぶりに風俗の取材を進めていますが、インテリ系の風俗嬢に目立つのは、第一に「トラウマの意識」、第二に「真の自分と仮の自分」です。そこには「トラウマを被った真の自分は、とても傷つきやすく人前に出せないから、私は仮面で人に接する」という意識があります。
「仮面なら、真の自分を隠せるから、自由になれて、できなかったことができる。それが風俗労働だ」という理解が典型です。僕は介入的だから、「それって変。真の自分とかトラウマって何? そうやって『真の自分』とやらを温存したら、永久に変われないし、トラウマも消えない」と言います。
 実際、放っておくと変われません。そうやって25歳になり30歳になり35歳になるのは傍目に悲惨です。過去の引力ではなく、未来の引力に身を委ねればいい。未来に実現したい最終目的は、自分でどうとでも定められるから、それ次第で「自分は思っていたような自分じゃなかった」となれます。
「自分は思っていたような自分じゃなかった」という気づきを何度か経験すれば、岸見先生のおっしゃる「変わらない決意」を、「あれは何だったんだろう」という具合に過去のものにできます。そんなふうに過去は横に置き、最終目的に由来する未来の引力に開かれればいい。
 僕がよくする言い方は、「君はトラウマを持ち出して自分を変えないことで、利益を得ている。それはわかる。でも、君が本当にありたい自分になるという大きな目的に照らして、有限な時間をそんな小さな利益のために使っていいのか」というものです。
 トラウマの多くは「親への恨み」つまり「親が別の振る舞いを選択してたら自分はこうならなかった」という思いと結合します。そこで親と対決して「別の選択ができなかったのか」とぶちまければ、たいてい親の反応は期待外れだから、「親に別の選択肢なんてなかった、親はこんなにも小さかった」となります。
 実際、1980年頃のアウェアネス・トレーニング(日本でいう自己啓発セミナー)は、前半にフロイト的なトラウマ概念を用いた「過去を赦す」セッションがあり、後半にアドラー的な大きな目的概念に照らして「今を感じる」セッションがありました。そんなふうに、過去の引力と未来の引力を関係づける仕方もあるのですね。

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きしみ・いちろう/1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や古代哲学の執筆・講演活動、そして精神科医院などで多くの“青年”のカウンセリングを行う。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。


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フロイト、ユングと並ぶ心理学界の三大巨頭とされながら、日本では無名に近いアルフレッド・アドラー。彼はトラウマの存在を否定したうえで、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言し、対人関係を改善する具体策を示してくれます。まさに村社会的空気のなかで対人関係に悩む日本人にこそ必要な思想と言えるでしょう。本連載では、アドラーの教えのポイントを逐次解説することでわかりやすく伝えます。

「嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラー」の教え」

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