仲間との温度差に、自分の本気度を認識した

―――学生団体でも活動されたと伺いました。

 著名人に解決策を聞いて回っても望んだような答えが得られなかったので、それなら学生の自分たちで自らが日本を変えようと、全国を行脚しました。学生リーダーが変われば、日本も変わるんじゃないかと思ったんです。
 そのときちょうど開催していた愛知万博にリーダーを集結させて、これからの地域づくりや教育がどうあるべきかなど、リーダーたちにインプットする場をつくろうと奔走しました。20代の若い人、日本を変えるという志に共鳴した人に会えたのは本当にうれしかった。

 でも、だんだん彼らとの温度差が明白になってくるんです。たとえば、学生なので試験のときは来ないとか、アルバイトが理由でイベントを休むとか。そういうことが続いて、真剣味が足らないメンバーとぶつかってしまったんです。

 今考えれば、みんな学生ですから、授業にも出ないといけないのもわかるし、デートだってしたいというのもわかります。でも、そのときは「若くて非力な僕たちが日本を変えるには、少なくとも大人の何十倍も頑張らなきゃ変えられないんだ」「なのにバイトを優先したり、なんでそんな中途半端なことをするんだ」「本気の覚悟がないなら、日本を変えたいって僕に言わないでくれ」と思ってしまったんです。

 そこで、気がついたんです。僕は真剣なんだと。
 日本を変える、世界を変えることにちょっと関わりたいだけじゃない。僕は命の全部をぶつけるぐらいの気持ちでやりたいんだと。自分の本気に、この運動を通じて気づかされたんです。

 ちょうど同じころ、ETIC.という起業をサポートするNPO団体主催の「東京ベンチャー留学」というプログラムに参加したんです。これは、東京の起業家から直接話を聞けるプログラムで、ここで初めて同じくらいの年代の経営者の方々、日本を変えていこうという志を持った、若い経営者にやっと出会えたのです。

 みんな、魂を燃やして打ち込んでる姿が、かっこよかった。このあたりから、自分の生き方が固まってきました。結局、この機会を通じて出合ったITベンチャーで3年間、インターンとして働くことになったのです。

目標は売り上げよりも「世界を変える」

―――インターン時代に、年間売り上げ5000万円というめざましい成績を達成されています。どのような目標を立てたのですか?

 長期的な目標しかありませんでした。僕の目標は、会社でトップの営業成績をとることよりも、「日本を良くして、世界を変えていくための能力を身につける」ということでした。
 だから、会社で上司からの評価は正直あまり気にしていませんでした。会社の中で評価される能力よりも、世界を変える能力を身につけることのほうが重要でした。

 それで役員にもぶつかっていき、どん欲に学びました。得られるものは全部得ようと思ったんです。世界の流れも吸収したいし、経営者としての能力も、経営の肝は何かということも掴みたい。リーダーシップも、新規事業創造の力も付けたい。全部学びたい。そう思っていました。ITの世界を通じて、パワフルな世界の未来像を前線からかいま見ることができたのは大きな収穫でした。

 そうこうしているうちに、この仕事が自分の命をかけるに値するか、という自問自答もありました。21歳のころに、富裕層のプラットフォームをつくるという構想を顧客と検討していたのですが、このプランを軌道にのせて成功させるまでには5年かかる、という読みでした。

 冷静に考えて、自分の21歳から26歳の5年間を、「富裕層のために使うかどうか」と考えたときに、答えは「ノー」でした。「時間は命」だと思っているので、20代の僕の命をあげられるかどうかという軸で判断したときに、この仕事は違うなと思ったのです。ではイエスと言えるものは何かというのを探し出したのはそこからです。