“人柄面接”で入社した人事がキャリア目標を迫る矛盾

高橋 就活の歪みについてもう1つ言えば、GPA(Grade Point Average:成績平均点数)が就職で問われない国だという指摘もあります。中国や韓国は、大学時代の成績を問われますね。

河合 アメリカ人の大学生も日本人が成績を気にしないことを不思議に思っていました。成績が就職に関係あれば、アメとムチで勉強するようになりますよね。

高橋 個人的な話になりますが、私の妹はアメリカ人と結婚して、娘がいま20歳の大学生です。「え!そうなの?」とビックリしたのは、車を買って保険に入ると、GPAによって保険料が変わるんですよ。

河合 点数が良ければ安くなるんですね。

高橋 反対に、成績で落ちこぼれると、保険料が高くなるそうです。車の保険料までGPAとリンクしているのに、就職で聞かれない国はおかしいと思います。

河合 大学で学んだことを無視した就職は異常とも言える状況ですね。アメリカの履歴書にはGPAを書く欄があって、それが低いと見向きもされないはずです。

高橋 何を学んだのかを聞かれなければ、どうしても就活のテクニック論に走ってしまいます。大学が行う就活支援も、面接の乗り切り方、エントリーシートの書き方といったテクニックですから。

河合 見せ方を考えるのは大切ですが、化粧の方法まで教えているのは驚きました(笑)。

高橋 コミュニケーション、話し方もあります。ただ、たしかにいまの大学生を見ていると、面接の練習をしなければ全滅してしまうような感じの人がたくさんいますからね。

河合 たしかにいますね。私は、今年の4月から京都大学大学院総合生存学館「思修館」に移籍して、そこでグローバル・コミュニケーションという授業を教えています。英語でプレゼンテーションをしてもらうのですが、かなりトレーニングされていて、プレゼン能力が非常に高い人がいるということも思います。

高橋 業界研究、企業研究もそうですけど、大学1年生から、世の中のことについて何も考えず、お気楽に大学生活、もっと言えば高校生活を送れてしまう国はなかったのでしょうね。それではダメだということになりましたけど、すでにお話ししたように、大人の側もどうすればいいかがわからないので、子どもたちが右往左往してしまっています。

 採用する側の人事は、「きみはこの会社に入って、どう活躍したいのか」「キャリア目標は何だ」と聞きますよね。でも、私は反対に聞きますよ。「そういうあなたは、自分が入社するころ、そんなこと考えていたの?」と。たいして考えもせず、“人柄面接”で入社したわけです。自分が考えてもいなかったことをよく人に聞きますね、と思います。

 面接でそうした質問のやり取りがされるため、「キャリア目標を考えよう」と言って、キャリア支援でも取って付けたようなストーリーができ上がり、おかしくなってしまう。すごく狭い世界で、キャリアで本当に必要な能力には結びつかないようなことに、無駄なエネルギーを使っていますよ。つまらないことに一喜一憂して右往左往する様子は、世界の、どこの国の人が見てもそう思うはずです。