潰瘍性大腸炎(UC)は、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる炎症性疾患。国によって難病指定されている。

 便がだんだん緩くなるのが初期症状で、重症化すると頻繁に血便や下痢、腹痛を起こし、発熱や体重減少が生じる。思春期~若年期の“難病”というイメージだが、発症のピークは思春期と中年期の二層性、というのが定説だ。

 福岡大学筑紫病院の高橋晴彦氏らの研究によると、日本では10~20代に発症のピークがあり、さらに40~44歳、50~60代にもう一山来ることが示された。また、2001年以降、50歳以上でUCを発症するケースが以前より約5倍も増加しているという。興味深いのは、50代の発症は一度もタバコを吸ったことがない「Never Smoker」より、喫煙者が禁煙した場合で発症数が多くなる点だ。健康を気遣った中高年期の禁煙が裏目にでるとは、何とも恨めしい。

 これまでにも「禁煙はUC発症のリスク因子である」「喫煙はUCの発症を抑制し、症状を軽くする」との報告があった。また、治療中のUC患者に対するニコチンの影響を検討した研究では、ニコチンパッチを貼付した患者で、腹痛や排便回数などの症状が軽くなり、腸粘膜の状態が改善するなど一定の効果が認められている。ただし、ニコチンの何が、どういうメカニズムでUCに効くのかは不明のままだ。

 一説では、喫煙者の腸内は非喫煙者に比べて免疫機構の一端を担う炎症性の生体物質が低下しており、その結果、炎症性疾患であるUCの症状が抑制されるらしい。実際、症状緩和の効果は認められるので、ニコチンパッチを自由診療として処方する医療機関もある──さすがに喫煙を勧められることはない。とはいえ、禁煙補助以外でニコチンパッチを長期使用した場合、発がん性など安全面での疑問は残る。中高年のUC患者を対象とした長期試験が必要だろう。

 ちなみに、UCと似た症状が現れる炎症性疾患のクローン病(やはり難病指定)は、喫煙が明確な発症・再発リスク因子。何がUCと異なるかは不明だが、こちらは確実に禁煙を勧められる。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)