「緘黙(かんもく)」とは、話す力があるにもかかわらず、不安や緊張などによって特定の社会状況になると、話をすることができなくなる状態だ。
その状態像は多様で、特定の人や場面なら話せる人もいれば、自宅でもまったく話せない人までいる。
また、「大人になれば、自然に治る」とは限らず、大人になって何年経っても緘黙状態のままの場合もある。
増え続ける「大人の引きこもり」の背景には、こうした緘黙状態の人たちも、声を発信することができないまま数多く埋もれているものと推測されている。
この緘黙症研究の第一人者である、長野大学社会福祉学部の高木潤野(じゅんや)講師が8日、緘黙の原因や支援方法など、これまでにわかってきた最新の研究成果について、当事者家族会「つぼみの会」「かんもくの会」共催の集会で発表した。
「緘黙の子は不登校にならない」
この“常識”が覆される可能性
これまでの専門書では「緘黙の子たちは不登校にはならない」と考えられてきた。しかし、高木講師は、多くの緘黙の子たちに面接調査してきた結果、「不登校渋り」や「不登校状態」になっているケースが多いことから、「不登校」と「緘黙状態」は、相互に影響を及ぼし合う可能性があるという新たな見解を明らかにした。
高木講師は、ICFというWHOが障害とは何かを定義したモデルを使って、緘黙を説明する。
これまでの障害は、例えば脳性マヒなどがあると体が自由に動かなくなり、活動が制限され、参加も制約されると考えられてきた。
ところが、そうした人たちの中にも、社会参加できる人がいる。
具体的には、車いすや杖、エレベーターやスロープなどの整備によって障壁がなくなれば、歩けなくても社会参加ができる。つまり、背景となる社会的な環境因子の視点が欠落していた。
また、年齢や性別、職場がコミュニケーション能力を重視し始めたニーズの変化などによって、社会参加が妨げられるという個人因子が関わっている。
さらに、参加が制約されることで心身機能に悪影響が出るという相互作用の結果が、障害という状態だと考えられるようになった。
「不安が強いと、人前で緊張する。しかし、不安が強いだけで緘黙になるわけではない。 緘黙状態の人の中には、自閉症が背景にある人もいて、2つの緘黙はかなり違うものだということが最近わかってきました」(高木講師)