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森達也 リアル共同幻想論

北朝鮮の戦勝記念館には
「自衛」のメッセージが溢れていた

森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]
【第78回】 2014年7月17日
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平壌の第一印象はカーキ色だった

 平壌へと向かう機内の乗客の半分以上は、意外にもヨーロッパからの観光客だった。北京からはおよそ2時間のフライト。機内食は紙に包んだハンバーガー1個。トマトもレタスも挟まれていない。ただしビールは自由に飲める。ビールを飲んでからハンバーガーを一口齧れば、少し変わった味だけど、決してまずくはない。不思議においしい。何だろう。ひょっとしたら添加物や化学物質の味かもしれないけれど、何となく懐かしい味なのだ。

 空港では少し緊張した。なぜなら税関や入国審査の職員たちの制服が軍服に見える。実際に街には軍人が多い。しかも一般男性の多くは人民服を着ているから、遠目にはやっぱり軍人と見分けがつかない。

 つまり平壌の第一印象はカーキ色。道路は広い。でも走る車は少ない。数時間前までいた北京の道路はとにかく車だらけで慢性的な渋滞状態だったから、その違いを強く感じる。バスの数も多くない。ならば移動はどうするか。

 平壌市民はとにかく歩く。なぜか自転車も少ない。ひたすら歩く。ハンドルを握る若林盛亮さんが、後部座席の窓ガラスに顔を押しつけるようにして街を眺める僕に、「彼らは一時間や二時間くらいは平気で歩きますよ」と教えてくれる。

 写真では何度か見たチュチェ思想塔が見えてきた。その近くには例の金日成の巨大な銅像がそびえている。横にもう一人いる。金正日だ。そうか。死んだから銅像になったのか。ならば金正恩の銅像はまだ先だ。

 そんなことを思いながら同時に、「たぶんこの国では、そんなことを思ったとしても公の場で口にしたらいけないのだろう」とも考える。金日成と金正日、そして金正恩は、この国では特別な位置にいる。別にそれが異常だとは思わない。先の大戦が終わるまで日本もそうだった。天皇の御真影は学校などに配置され、その前を通るときに職員や児童は最敬礼を強要された。学校が火事になって御真影が焼けたときは、校長が割腹自殺した。守ろうとして焼死した校長については、新聞は美談として大きく伝えている。

 それらすべてが無理矢理だったとは思えない。自殺はともかくとして最敬礼くらいは当然のこととしていた人が大半だったはずだ。
 指導者への過剰な崇拝は人の属性のひとつなのだと思えば異常ではないけれど、それによって多くの人が苦しんでいるのなら尋常でもない。

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森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]

1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。


森達也 リアル共同幻想論

テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!

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