社長からの特命

「今、うちのメインブランドのひとつが、まさに不振状態にある。君なら、どのくらいで立て直せると思うかね?」

「前の会社の場合は、着手して半年で結果は見えましたが」

「半年か…、よろしい。うちで同じことをやってください」

「えっ?」

「高山君、よろしく頼みます」

 田村社長は、さらに強い口調で言った。

「社長、ちょっと待ってください。こちらでも同じスピードで成果が出せるかどうかはわかりません。レディースアパレルについても、ぼくはまだ明るくないですし…」

「そりゃそうだな」

 高山の返答は、あっさりと田村に流された。

「で、うちでやってくれるのか?」

 改革なんて会社が違えば環境も違うし、前提が変わればやり方も変わるだろうに、と思うその一方で、自分があのグローバルモードの社長に評価されていることが嬉しいのも事実だった。

「わかりました…」

 半ば勢いで高山は、入社承諾の返事をしてしまった。

 数日後、グローバルモードの人事部から封書が届き、希望勤務開始日などの質問と、入社承諾書にサインをして返送するよう指示が同封されていた。 高山が就職活動を始めてから、すでに2ヵ月がたっていた。

 まだ30歳という年齢だが、経営改革に携わった体験を自分の言葉で語ることができるちょっとした迫力からか、高山に興味を示す企業はいくつかあった。

 新興のIT企業やウェディング事業の会社など、いくつかの面接を受け、そのほとんどが役員面接に進んだが、その会社の社長や幹部との面接でなんとなくピンとくるものを感じられず、高山は返事を保留していた。

 そんなところに、株式会社グローバルモードの話が来た。メンズ業界にいた高山にとってレディースファッションの話は、同じアパレル業界での違いを知りたいという好奇心を大いに刺激した。