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田岡俊次の戦略目からウロコ

マレーシア航空機撃墜事件!
非難合戦→危機の深化を避ける方法とは

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第33回】 2014年7月24日
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7月17日、ウクライナ東ドネツク州に、アムステルダムからクアラルンプールに向かっていたマレーシア航空MH17便のボーイング777旅客機が墜落した。ロシア製の地対空ミサイル「ブク」によって撃墜されたことは、ほぼ間違いない。だが、だれがどのような経路でブクを入手し、マレーシア航空機を撃墜したかはまだ不明だ。背後にいるとおぼしき国を非難し、対立を激化する事には危険が伴う。このような重大な過失致死事件の処理ではできるだけ具体的精密に、誰に過失責任があるのかを突き止める事が各国の安全保障と国益にとり良策、と考える。

チームでないと「ブク」は操作できない

 7月17日午後4時20分(日本時間午後10時20分)頃、ウクライナ東ドネツク州のトレーズ市近郊のグラボボ村に、オランダのアムステルダムからクアラルンプールに向かっていたマレーシア航空MH17便のボーイング777旅客機が墜落し乗客283人、乗員15人全員が死亡した。この事件について、ウクライナ政府は同国東部のドネツク州、ルハンスク州の大部分を勢力圏とする親露派のテロ行為として、ロシアの関与を非難する。一方ロシアは関与を否定し、ウクライナが自国領空の安全を確保しなかったことを批判している。米国、西欧諸国もほぼウクライナと軌を一にしてロシアと対立し、この事件は世界情勢に重大な影響を及ぼしかねない形勢となりつつある。事件の詳細にはなお不明、疑問の点が少なくないが、これまでの報道等から客観的に判断し、まず確かかと思われることを整理してみた。

 この事件はウクライナ東部の分離、独立をめざす親露派武装組織がロシア製の中距離ミサイル、制式名称「9M38」、愛称BUK(ブク・椋の木)、NATOが「SA‐11」と呼んでいるもので撃墜したことはまず確かだろう。ロシア語を日常使う人口が70%以上のドネツク州では4月21日のクリミアのロシア編入(この日ロシア議会が編入条約を批准)に勢いづいた親露派が蜂起し、5月14日にドネツク人民共和国の独立宣言を発した。5月初旬以来ウクライナ政府軍・治安部隊と戦闘を続けている「ドネツク軍」のイーゴリ・ストレルコフ司令官が、ロシアの大手交流サイトの自分のページに7月17日、MH17機の墜落の約17分後に「トレーズ近郊でアントノフ26(ウクライナ軍の輸送機)を撃墜した」と書き込み、間もなく削除したことがロシアでも報じられている。「なりすまし」の可能性も一応は考えられるが、ストレルコフ氏が書き込みを否定した、との報道はないようだ。

 SA‐11の射程は30km余で、命中後に機体の大部分は放物線を描いて数km東に落下すると見ても、落下地点から40kmの範囲内は親露派の勢力圏だ。親露派と政府側の支配地は明確に線引きができないといっても、政府軍がこの地域からSA-11を周辺の親露的住民に気づかれずに発射することは不可能に近いと考える。親露派はマレーシア航空機の前にもウクライナ政府軍の固定翼機3機、ヘリコプター4機を撃墜している。5月2日にドネツク州スラビヤンスクで政府軍のヘリコプター2機を撃墜(死者2人、負傷者7人)、5月29日にも同地でMiL8ヘリコプター1機を撃墜(死者14人)、6月14日には4発ジェット輸送機IL(イリューシン)76を撃墜(乗員9人、将兵40人死亡)、6月24日にもスラビヤンスクでMiL8を撃墜(死者12人)、7月14日にはルハンスク州上空6500mで双発ターボプロップ輸送機An(アントノフ)26を撃墜(乗員8人、落下傘で脱出)、7月16日にドネツク州上空で対地攻撃機Su(スホーイ)25を撃墜(操縦士脱出)――という民兵にしては相当な「戦果」だ。さらに23日にもSu25を2機撃墜した。

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田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

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