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上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

新興国の製造業を踏みつぶし農産物は拒絶!?
TPPをめぐる「国益」論議への違和感

上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]
【第86回】 2014年7月25日
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 カナダ・オタワで、環太平洋経済連携協定(TPP)の参加12ヵ国首席交渉官会合が開かれた。労働分野の貿易ルール作りについて、児童労働や強制労働で作った製品の輸出を禁じる内容などが盛り込まれるなど、TPP交渉の全21分野のうち12分野がおおむね決着した。一方、二国間の関税協議や知的財産権の保護、環境や国有企業改革など、妥結が困難な問題はまだ残っている。これらは、次回の閣僚レベル会合に持ち越すこととなった。

 関税協議について、日本は、米国、メキシコ、ニュージーランドなどと個別に関税協議を進めようとした。特に米国とは、豚肉や牛肉の輸入関税の扱い、自動車の市場開放などで協議を重ねた。だが、いまだに一致点を見出せていない。

 4月に行われた甘利明TPP担当相とマイケル・フロマン米通商代表部(USTR)代表による日米閣僚協議で妥協点を見つけられなかったTPP交渉は、少しずつ動き始めてはいる。しかし、結局米国は11月に中間選挙を控え、日本は安倍晋三首相の「やりたい政策」実現が重要な局面に入っているために、ともに現段階では妥協しづらい状況が続いている(第81回を参照のこと)。

「TPP参加=国益・聖域の喪失」への違和感
公平な条件の国際競争を頑なに拒むのは乱暴だ

 TPP交渉に関して、日本国内ではコメ、麦、牛肉、乳製品など農林水産物の関税撤廃、国民皆保険制度、公的薬価制度の自由化、自動車の安全基準や食の安全基準の緩和などに、さまざまな業界や族議員から激しい反対論が起きてきた。それに対して、安倍内閣では、首相やさまざまな閣僚、党幹部が八方美人的に「聖域は絶対に守る」「国益は死守する」と業界や族議員に言い続けてきた(第55回を参照のこと)。だが、「TPP参加=国益・聖域の喪失」という論理は、少々話が飛躍しすぎだと思ってきた。筆者はずっとある種の違和感が拭えないでいたのだ。

 TPPの最大の特徴は「例外なき関税撤廃」という原則だ。これは、TPP参加国の間では、「国際競争力の前提条件を公平に揃える」ということを意味している。TPP参加国間では、シンプルに公平な条件下でビジネスができるということであり、換言すれば、TPP参加が即、ある産業の国際競争力喪失につながるわけではない。公平な条件下で、国際競争力を持つことができるならば、ビジネスの勝者になれるのである。一方で、公平な条件下で競争力が劣ってしまったとしても、競争力強化策を実行して、最終的に勝者となることも不可能ではない。

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上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]

1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。

 


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国際関係、国内政治で起きているさまざまな出来事を、通説に捉われず批判的思考を持ち、人間の合理的行動や、その背景の歴史、文化、構造、慣習などさまざまな枠組を使い分析する。

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