2013年7月1日に始まった生活扶助見直し(ほぼ全面的に引き下げ)に引き続き、住宅扶助を始めとする生活保護のいくつかの扶助に関して、引き下げの検討が行われている。

今回は、車椅子を使用する障害者の「住」のありのままを紹介する。現状の住宅扶助は、どのように「健康で文化的な最低限度」の住生活を保障しているのだろうか?

「バリアフリー」が実現されるのはいつ
一般的な日本の市街地と車椅子

 2020年、東京ではオリンピック・パラリンピックの開催が予定されている。2020年の東京では、全世界から訪れる選手団や来訪者に感嘆されるほどのバリアフリー化が進められていることだろう。現在でも、東京23区内の交通機関や公共施設のアクセシビリティ(障害者も含めた多様な人々が実際に使用できること)は、世界の大都市の中では先進的だ。

 ただしときおり、設計・運用に関して、

「そこには実際に障害者が来て、通行し、使用するのだ」

 と考えられているとは思えないズレが見受けられる場面もある。たとえば「ゆりかもめ」新橋駅の多目的トイレは、数年前まで施錠されており、駅員に解錠してもらわなければ利用できなかった。新幹線をはじめとする主要路線のいくつかが、世界に多くのユーザーを持つハンドル式電動車椅子での利用を事実上拒んでいたりもする。しかし、少なくともインフラを建造することに関しては、東京は「世界トップレベル」と言ってよいと筆者は思う。

 今回は、さいたま市在住の生活保護利用者・朝霧裕さん(35歳)の「住」を紹介する。朝霧さんは生まれつきの難病のため、内臓も含めて筋力が極めて弱いうえ、筋肉そのものの量も少ない。136cmの身長に対して、体重は25kg~28kg程度である。生まれてから一度も、自力歩行が可能だったことはない。 

 現在の朝霧さんは、さいたま市のアパートで一人暮らしをしている。トイレ利用・入浴など、ほぼすべての動作で介助を必要とするため、毎日24時間、介助者とともに生活している。室内・室外での移動は、電動車椅子のジョイスティックを操作して自力で行っているが。その車椅子への移乗にも介助を必要とする。

駅、道路、自宅までの動線に障害は?
車椅子使用者の日常生活

住宅扶助は許されないゼイタクなのか?<br />“車椅子の歌姫”が強いられるギリギリの「住」街道を行く朝霧裕さん(右)と介助者(左)。二人はスムーズに進んでいくが、路上も周辺にもバリアやハザードがいっぱいだ
Photo by Yoshiko Miwa

 さいたま市内、JR東日本のとある駅で、筆者は朝霧さんと待ち合わせた。朝霧さんと介助者の女性に先導され、駅から急坂を上る。自転車の「立ち乗り」でも上れなさそうな急坂だ。急坂の多い街では、「生まれ育った家にいては地形に阻まれて外出もままならない」という障害者も珍しくない。それが原因で、外出が不可能であれば、一般的な就労による経済的自立に至ることはない。しかし、この地域では地形のバリアは大きくなさそうだ。