完成直前のマンションの実質的な“取り壊し”を求める判決が東京高等裁判所で出され、建設業界で話題を呼んでいる。
問題の工事は、東京・新宿区で新日本建設が3月竣工予定で進めている約30戸のマンションだ。接道部分の幅員が東京都の建築安全条例の基準を満たしていないものの、新宿区長の出した安全認定に基づき、特例扱いで2006年7月に建築確認が出された。
今回の裁判は、安全認定が違法で災害時に危険があるとして、周辺住民が区を相手取り建築確認取り消しと建物の除去を求めて提訴したもの。一審では、認定への審査請求の期間が過ぎているとして原告側が敗訴したが、高裁では安全認定が違法であるとし、建築確認を取り消す逆転判決が1月14日に下された。
区は上告したが、高裁は2月6日、最高裁判決が確定するまでのあいだ、工事を停止する執行停止命令を出し、工事は現在中断している。割を食ったのは新日本建設。
仮に建築確認自体が無効となると、現在ほぼ完成している建物を取り壊し、延べ床面積を大幅に減らす根本的な計画変更を行なわなければならない。新日本建設側では「裁判で最終的な判断が下されるまでは今後の対応は未定」としているが、区に賠償を求めるのも容易ではない。
本来規定に準じていない建築確認が、自治体の裁量で特例として通る例はあまたある。また安全認定の基準を数値で定めるかどうかも自治体により対応が分かれるのが実情である。
もっとも「地上3階、地下1階、延べ床2800平方メートルもの大規模な集合住宅を規制の緩やかな重層長屋として申請し、数年来の住民側からの要請にも非常に不誠実だった」(原告代理人弁護士)というディベロッパーの姿勢が問題の根幹にあることは否定できない。
今回の判決で、工事の進捗状況にかかわらず行政裁量が裁判で否決されることもある、という事業者側にとってのリスクが浮き彫りになった。開発に権利関係が錯綜するのは常だが、周辺住民の合意なしの強引な開発が割に合わなくなる可能性を覚悟すべきであろう。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 鈴木洋子)