一流のビジネスパーソンになるには、会計の知識が必要です。会計を知らなければ、ビジネスの本当の意味はわかりません。そして、会計はビジネスを広く高い視点で眺めるための有効な道具となるからです。この連載では、初めて会計を学ぶ人、会計の勉強をあきらめてしまった人に向けて、会計の全体像、財務3表のつながり、財務分析の考え方などをストーリー形式でやさしくご説明します。

プロとしてビジネスの世界で
仕事をするために

「取り敢えず、生ビール2つと枝豆お願いします」

 若い女性店員はうなずいて、注文を伝票にメモしながら去って行った。
 高橋は、前の職場の上司だった石田と一緒に会社近くの居酒屋に来ていた。

「最近、営業成績バツグンらしいな」

 石田がおしぼりを使いながら言った。

「いや~、それほどでもありません」

 高橋は頭をかきながら謙遜して言ったが、高橋の営業成績は営業部の中でも断トツだった。高橋は入社7年目の29歳。もともとエンジニアとして入社して設計部で働いていたが、2年前に営業部に異動になっていた。石田は高橋が設計部にいたころの上司であり、高橋を営業に異動させた張本人だった。

「高橋君が営業部に移って間もないころは心配してたよ。目が死んでたもんな~」

「いまから考えれば、あのころは半ウツ状態だったかもしれませんね。営業の仕事は設計の仕事とは何もかも違いましたから。営業に移ったころは何もできなくて…」

「でも、慣れると仕事はどれも同じだろ」

「そうですね。仕事の全体像とキーポイントがわかり、お客様との信頼関係が築けるようになると、いろんなことが順調に回り出したような気がします。もちろん、いまでも課題はたくさんありますが」

 女性店員がビールと枝豆を運んできた。

「お疲れさん」

「お疲れ様っす」

 2人はジョッキを軽く合わせて乾杯した。石田の目には、高橋は設計部にいたころより一回り大きくなったように映った。優秀な高橋を営業に異動させて間違いはなかったと思った。