本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

 先日、日本の大手金融会社の人事で10年以上仕事をしていた女性から、まさに「心のダークサイド」に関する話をうかがったので紹介したい。

 新入社員当時から優秀だった彼女は、本社の人事部に配属されてから数年で主任になった。彼女の会社は全国に支店を持つ大手だったため、新卒採用のプロセスは大規模なものとなる。

 全国に10以上の採用チームがつくられ、数千人の応募者の中から書類選考、筆記試験、一次面接を経て、本社面接に進ませる者が約800名、その後彼女らのチームが面接を行い、最終合格者として約100名を選出する。

 当然、本社の人事課長、部長、それぞれの代理など、選り抜きの人材が面接を行う。面接では、彼女も含めて数人の上司たちがそれぞれに面接結果を独自の採点シートに記入し、最終ミーティングを行って内定者を決めていく。

エリート人事マンと採用に臨んだ
若き女性主任の信じられない体験

 そこで、彼女は奇妙な体験をした。

 彼女より5歳ほど上の若手管理職のA氏は、社内でもすでに将来の幹部候補と言われるエリートだった。一流私立大学出身で、人当たりもよく、彼女も尊敬できる先輩だと思っていた。

 彼女は、A氏と同じ面接チームに配属された。A氏が筆頭で、彼女の他に3人、計5人で面接を行う。面接評価は、候補者の様々な側面について、1、2、4、5の4段階で評価する。3の評価はない。なぜなら、ほとんどの候補者は、ほぼ同様に優秀だが個性的ではなく、可も不可もつけにくい人物が多いためだ。意図的に4段階にして、できるだけ差異をつけようとする。そして、その評価表を持ち寄って、最終的には話し合いで合否を決定する。

 大手金融で数千人から絞り込まれただけあって、さすがに本社面接に残る学生は優秀な人が多かったという。いわゆる「お勉強」という点では、みな同様に優秀で横一線だ。