香港行政長官選挙から民主派候補を排除する中国政府の決定に反発した学生らが始めたデモは、最大で10万人を超える前代未聞の抗議運動となった。香港政府が強制排除をちらつかせる中、6日になって政府と学生団体との間で対話に向けた交渉が始まったが、事態は予断を許さない。 

 香港の見慣れた目抜き通りをびっしりと埋める群衆。その彼らに向かって催涙弾が発射されたとき、私は涙が出そうになった。それは見詰めていたスマホの「WeChat」(LINEによく似た中国製チャットアプリ)で、デモ隊の中にいたジャーナリスト、張潔平氏が「警察が防ガスマスクを着け始めた。催涙弾が発射されるのかも」というメッセージを発信してから3分もたっていなかった。

1967年以来初めて催涙弾が使われた香港の市民デモ。しかし、参加者は投石一つ行わず、警察と対峙する際は必ず、無抵抗の証しとして両手を高く上げた
Photo:AA/時事通信フォト

 それは1967年に、当時中国で起きていた文化大革命の政治イデオロギー闘争の煽りを受けて大規模な暴動が起きたとき以来初めての、香港市街地での催涙弾使用だった。今回、香港警察は路上を占拠する群衆を撤退させようと、「87発の催涙弾を使用した」と記者会見で述べている。

 だが、中国国内での報道は違う。中国共産党中央委員会機関紙の「人民日報」は、「WeChat」上の公式アカウントで、その様子をこう伝えている。

 「香港警察の司令官は、9月28日に催涙ガスを使用したのは、第一線に立っていた指揮官が十分な警告を行い、他に選択肢がない中で下した決定だったと語った。『もし、あのとき催涙弾を使用しなければ、デモ隊は警察のバリケードを突き破り、重傷者が出たり、さらにひどい状況になったはずだ』」