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相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記

働く公務員集団をつくることは本当に可能なのか?
奇跡の村に弟子入りした泉崎村が破綻の淵から蘇るまで

相川俊英 [ジャーナリスト]
【第115回】 2014年10月28日
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「それは無理です」「そこを何とか……」
下條村の応接室で続く村長同士の悲壮な交渉

 「短くても半年、それも2人ずつ何とか受け入れていただけないでしょうか?」

 「職員を減らしているので増えるのは困ります。無理です」

 「そこを何とかお願いします。東北の下條村を目指したいんです。受け入れていただけるまで何日もここで寝泊りする覚悟で参りました」

 2010年2月のある日のことだった。2人の男性が応接室で向かい合い、こんなやり取りを続けていた。長野県下條村の村長応接室だった。

 懇願されて困り果てた表情を見せるのは、下條村の伊藤喜平村長。一方、要求が受け入れられるまでテコでも動かないと悲壮感を漂わせたのが、福島県泉崎村の久保木正大村長だ。前年11月に就任したばかりの新人村長である。直線距離で数百キロも離れた福島から、不退転の決意で村議会議長と共に訪ねて来たのである。

 村長自ら足を運んできたのには、特別な事情があった。それは、泉崎村の職員を下條村役場で長期研修させたいという異例のお願いだった。市町村職員が県や国、研究機関などに研修目的で出向する事例はよくあることだが、村の職員が他県の村で長期研修するというのは聞いたことがない。短期日程の視察で済ますのが、通例だからだ。

 実は、泉崎村の久保木村長も村議会議長のときに下條村を視察していた。下條村の様々な取り組みの説明を担当者から受け、深く感銘した体験を持っていた。

 人口4000人ほどの小さな山村に過ぎない下條村は、行政関係者の間で「奇跡の村」と呼ばれるほどの存在だった。財政改革を徹底し、全国トップクラスの健全財政を構築していたからだ。

 下條村の財政力指数(必要経費を税収で賄える割合)はわずか0 .221と低いが、実質公債費比率(一般財源に占める借金返済額の割合)はマイナス5.4%で、なんと全国ベスト3位。実質公債費比率がマイナスを記録しているのは、交付税措置付きの借金を繰り上げ償還していることによる。

 経常収支比率(一般財源に占める義務的経費の割合)は65.1%と6年連続で6割台を維持。また、村の実質的な借金残高が約1億1400万円に対し、基金残高は約60億円にも上っていた。一般会計の歳出額が約24億2000万円ほどなので、2年半分に相当する(いずれも2013年度決算)。

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相川俊英 [ジャーナリスト]

1956年群馬県生まれ。放送記者を経て、1992年にフリージャーナリストに。地方自治体の取材で全国を歩き回る。97年から『週刊ダイヤモンド』委嘱記者となり、99年からテレビの報道番組『サンデープロジェクト』の特集担当レポーター。主な著書に『長野オリンピック騒動記』など。


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国政の混乱が極まるなか、事態打開の切り札として期待される「地方分権」。だが、肝心の地方自治の最前線は、ボイコット市長や勘違い知事の暴走、貴族化する議員など、お寒いエピソードのオンパレードだ。これでは地方発日本再生も夢のまた夢。ベテラン・ジャーナリストが警鐘を鳴らす!

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