ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
ニッポン 食の遺餐探訪

外国人を“アート”“魔法”だと驚かせた
紙のように薄い「木のコップ」を生み出す日本の職人

樋口直哉 [小説家・料理人]
【第24回】 2014年11月5日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage
紙のように薄い木のコップ「kami glass」

 日本は「木の文化」、西欧は「石の文化」とよく言われるが、木の良さが最近見直されている。建築のジャンルではかつての鉄とコンクリートの時代が終わり、木造の再評価が世界的に進んでいる。料理にも同じようなことが起こっていて、エルブジなどに代表される一時期の行き過ぎたものから、自然に回帰するような流れがある。

 業界外の人には気づきにくいことだが、器にも流行がある。例えばかつてフランス料理といえば、装飾が施された丸い陶磁器の皿に盛りつけられるものだった。それがモダニズムの流れに従うように装飾が落とされ、民主的でフラットな白い皿に料理は盛られるようになった。そして、数年間だけ四角い皿が流行った後、やがて自由な造形の皿が用いられるようになった。

 このところはこれまでの冷たい印象のある陶磁器の器から、木や石などの温かみのある素材に関心が集まっている。なかでも木は自然をダイレクトに感じられる触り心地の良さと、温かさがあるので、心の落ち着きを求める現代人にぴったりだ。

北海道の木工の街で生まれた
紙のように薄くて軽い「木のコップ」

 以前、この連載で『折箱』を扱った際にも言及したが、日本の森林資源量は年々増加し続けているものの、利用率は40%に過ぎない。6割の森が放置されているわけで、日本はその資源を有効に活用できてはいないのだ。

 普段の生活のなかから木は遠ざけられた。極端な例かもしれないが、朝起きてから眠るまで一度も木に触れることなく時間を過ごすことだって可能である。そうした暮らしのなかで普段、森林について考える機会などない。

 木工の街として知られる北海道、旭川にある高橋工芸は『Kami』シリーズなどで名前が知られる会社だ。現代の生活様式に溶けこむ製品をつくり、北海道産の落葉広葉樹であるセンの木でつくられたコップは特に有名で、セレクトショップなどで見かけたことのある人も多いかと思う。

 手に持ってみると誰もがその軽さに驚く。透けて見えるのではと思うほど薄いが、華奢な印象はない。実際、割れにくいそうだ。

 僕らがお邪魔させていただいた工房は、驚くほど小さく古い建物だった。ここで製造された商品が並べられている洗練された都会のセレクトショップとのギャップはかなりのものだ。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR
【デジタル変革の現場】

企業のデジタル変革
最先端レポート

先進企業が取り組むデジタル・トランスフォーメーションと、それを支えるITとは。

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


ニッポン 食の遺餐探訪

和食を世界遺産に、という動きが農林水産省を中心にはじまっている。日本料理はここ十年余りの世界的な流行になり、外国の料理人の多くも関心を持っていて、誰もがそれを理解しようとしている。しかし、当の日本人の多くは日本料理を理解できていないのではないか。そこでこの連載では、日本の食を支えている道具や食材をつくっている生産者、職人を訪れて、私たち日本人が知らない日本の“食の遺餐”を紹介していく。 

「ニッポン 食の遺餐探訪」

⇒バックナンバー一覧