このシリーズでは、50年ぶりの国産旅客機が初披露されたことをきっかけに、航空機産業の実態をご紹介しながら、他産業にも通じる問題について解説している。前回は、LCCという新しいエアラインビジネスの台頭に伴い、自らにとって都合の良い市場環境を実現した米国の航空機エンジンメーカーの事例をご紹介した。

いとう・しんすけ
株式会社rimOnO(リモノ)代表取締役社長。1973年生まれ。京都大学大学院工学研究科卒業後、1999年に通商産業省(現、経済産業省)に入省。経済産業省では、自動車用蓄電池の技術開発プロジェクト、スマートハウスプロジェクト、スマートコミュニティプロジェクトなどの国家プロジェクトを立ち上げた後、2011~2013年には航空機武器宇宙産業課において航空機産業政策に従事。2014年7月に経済産業省を退官し、超小型電気自動車のベンチャー企業、株式会社rimOnOをznug design根津孝太と共に設立。

 第2回の今回は、ITとサービス機能強化で、巧みに顧客のロックインを実現した欧米の航空機エンジンメーカー3社の取り組みを紹介したい。

なぜ大幅値引きでも儲かるのか

 乗用車を購入する際、車種を選んだ後に「エンジンはどのメーカーのものにされますか?」と言われたことのあるユーザーはいないと思う。

 しかし、航空機の世界では機種を選んだ上で、エンジンにも選択肢があるのが一般的だ。特に大型機になればなるほどその傾向が強く、少し前の機種であるボーイング747-400やボーイング777-300では、3種類の選択肢の中から選べるようになっていた。日本企業が深く関与しているボーイング787型機でもロールスロイス製のTrent1000エンジンとGE製のGEnXエンジンが選べるようになっている(図表1)。

 機体購入後に航空機エンジンを選定するということは、エアラインや航空機リース会社が機体の購入を決めたところからが航空機エンジンメーカーにとっての勝負であり、そのため自社エンジンを選択してもらうべく激しい値引き合戦を行うのが一般的となっている。聞くところによると通常の値引き率は6~8割とのことであり、それだけでも驚くべき数字といえるが、中には100%に近い値引きもあるという噂を聞く。

 それでは、航空機エンジンメーカーはどのようにして開発費を回収するとともに収益を得るのだろうか。その部分こそが今回解説したいビジネスモデルなのである。

(出典)経済産業省産業構造審議会産業技術分科会 資料より
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