業績評価や交渉といった対人コミュニケーションのスキルを、「仮想人間」を使ったロールプレイで訓練する研究が進んでいる。研修プログラムとバーチャル・リアリティを高次で融合させるこの技術が普及すれば、数々のメリットがあるという。

 

 航空業界では長年、パイロットに難しい状況への対処法を訓練するために、フライト・シミュレーターを利用してきた。現実の世界でやるには多くの費用がかかり困難や危険が伴うことを、仮想体験で学べるという優れた方法だ。

 一方ビジネスの世界では、リーダーは訓練を受けていないがためにきわどい状況に置かれることがよくある。人事評価や交渉といった他者とのやり取りには、対人力学が作用する。それをうまく管理するには練習が必要だ。対人コミュニケーションでは感情が高まりやすく、失敗すれば取引を失ったり人間関係を損ねたり、自身や会社の評判を傷つけたりする場合もある。

 一部の(とりわけ裕福な)企業は、マネジメントやその他のトレーニングで生身の人間によるロールプレイを活用している。この方法は費用がかかるうえ、時間と人間の空き状況による制約があり、しかも一貫性に欠ける。しかしいま、人工知能とコンピュータ・グラフィックスの進歩によりこれらの問題を克服できるようになりつつある。対人コミュニケーション能力を、フライト・シミュレーターに匹敵する方法で訓練できるのだ。これらのシミュレーションは、リーダーが仕事で遭遇するであろう状況をリアルに映し出し、ロールプレイによる豊かなコミュニケーションを可能にする。そして1対1の対話、または複数のグループや部署が関わる複雑な力学の中での、建設的なフィードバックを訓練することもできる。

 私が所属する南カリフォルニア大学のクリエイティブ・テクノロジー研究所は15年前から、米陸軍による出資を受け、仮想人間を用いたロールプレイを技術と方法論の両面で進化させてきた。外見も行動も本物の人間にそっくりな仮想キャラクターの生成、そして個人・集団の行動様式のモデル化に基づく対人シミュレーション技術の開発だ。

 いまでは何千人もの軍人たちが、バーチャル・リアリティとビデオゲームを通して対人スキルの講習や訓練を受けている。そこには同僚への助言の仕方や、異文化の相手と交渉する方法、さらには自分の意思決定が組織内外のさまざまなグループにどう受け取られるか予測する方法なども含まれる。

 仮想人間のロールプレイヤーは、他の分野でも活用されている。法学部の学生は、事件を目撃した子どもから話を聞き出す方法を学べる。新人の医師は、診断スキルや患者の扱い方を向上できる。自閉症スペクトラムを抱える若者は、採用面接での受け答えの練習ができる。