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野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む

最悪の雇用危機が迫るなか、真に必要なのは金融投資ではなく自己への投資

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第10回】 2009年2月14日
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 「経済危機が深刻化すると、ビジネススクールへの入学志望者は、増えるだろうか、減るだろうか、あるいは影響を受けないだろうか?」

 「In Tough Times, M.B.A. Applications May Be an Economic Indicator(不況時にはMBAの志望者数が経済指標になるかもしれない)」というタイトルの「ニューヨーク・タイムズ」の記事は、このようなクイズで始まる。

 この答えは、「増える」である。しかも、顕著に増えるのだ。実際、アメリカのビジネススクールの志願者は、昨年秋の応募期限時において、顕著な増加傾向を見せていると、この記事は伝えている。ビジネススクール応募のために受ける必要があるテストの受験生は、昨年秋には、1年前に比べて11.6%増加した。

 また、「ビジネスウィーク」誌は、2008年におけるビジネススクール応募者数が、07年に比べて64%も増加したと伝えている。これは、Graduate Management Admission Councilが行なった調査に基づくものだ。

 この傾向は、意外なものではない。過去においても、かなり確実な傾向として見られたことだ。だから、大学院関係者は、金融危機の進展で志願者が増えることを予想していたのである。私が知っているあるアメリカのビジネススクールの教授は、志願者の急増で悲鳴をあげている。

 そして、これは、アメリカに限った現象ではない。日本でも同じ現象が見られる。私は早稲田大学のファイナンス研究科という専門職大学院(主として社会人を対象とした大学院)で教えているのだが、志願者数は、やはり昨年の秋から急増している。実はいま入学面接試験の最中なのだが、例年よりも遥かに長い時間を費やさなければならない状態になって、悲鳴をあげているのだ。

 なぜ増えるのか? それは、「機会費用」という経済学の概念を使って簡単に説明できる。

 経済が活況を呈しているときは、仕事をやめて(あるいは仕事の時間を削って)大学院に来ることの犠牲は大変大きい。つまり、大学院で学ぶコスト(機会費用:犠牲にされる所得)が大きい。それに対して不況時には、仕事を削ることの費用が低くなる。だから、大学院に来るのである。これは、私の経験上も明らかなことだ。日本の景気回復が明らかになった2005年、2006年には、われわれの大学院への入学志願者数も減少したのである。

 ただし、私の解釈は、「機会費用」というよりは、もっと積極的なものだ。経済環境が大きく変わるときには、自己投資が必要になる。そして、そのことを若い人たちは直感的に感じ取るのだ。

なぜ金融投資でなく
人的投資なのか?

 昨年12月に刊行した『世界経済危機 日本の罪と罰』(ダイヤモンド社)のなかで、私は、「いまは金融投資をする時代ではない。必要なのは自己投資だ」と書いた。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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