今回ご紹介するのは、長岡藩の美談を題材にした『米百俵』です。「米百俵」の逸話および中心にいる小林虎三郎の生涯を描いています。小泉首相による所信表明演説で一躍有名になり、流行語大賞まで受賞しました。

既視感を覚える
安倍首相の所信表明演説

 第47回衆院選の投開票が3日後に迫ってきました。この2年間におよぶ第2次安倍内閣の経済政策や消費税増税先送りの判断の是非などについて、国民に信を問うことが今回の解散と総選挙の「大義」なのだそうですが、選挙運動が中盤を迎えたところで早くも「自民優勢」「自民大勝」「自民圧勝」といった報道が先行しました。もっとも、選挙は水物です。勝ち負けは下駄を履くまでわかりませんよ。

 解散風が吹いてくるなどとは誰も予想しなかった3ヵ月ほど前の9月。第187回国会が開会し、安倍首相による所信表明演説が行われました。「災害に強い国づくり」「復興の加速化」「地方創生」「地球儀を俯瞰する外交」「成長戦略の実行」などを訴えたあと、明治時代の農業指導者・古橋源六郎暉兒(ふるはしげんろくろうてるのり)にまつわる故事を引き、古橋自身が生まれ育った三河の稲橋村(現在の愛知県豊田市稲武地区)を豊かな村へと発展させたこの農業指導者の功績を称え、以下のように演説を締めくくりました。

「今、『日本はもう成長できない』、『人口減少は避けられない』といった悲観的な意見があります。

 しかし、『地方』の豊かな個性を活かす。あらゆる『女性』に活躍の舞台を用意する。日本の中に眠る、ありとあらゆる可能性を開花させることで、まだまだ成長できる。日本の未来は、今、何を為(な)すか、にかかっています」

 この演説を聞いたり読んだりした方のなかには、既視感を持たれた人も少なくなかったのではないでしょうか。その既視感は、安倍首相を小泉純一郎元首相に置き換えることで、より鮮明になるはずです。

 2001年4月。第1次小泉内閣を発足させた小泉首相は翌5月に国会の演壇に登り、総理大臣として初めての所信表明演説に臨みました。その演説の最後の節で新潟県長岡市に伝わる「米百俵」のエピソードに触れ、「今の痛みに耐えて明日を良くしようという『米百俵の精神』こそ、改革を進めようとする今日の我々に必要ではないでしょうか」と訴えたのです。ちなみに、「米百俵」は「聖域なき改革」「骨太の方針」などとともに01年の新語・流行語大賞の年間大賞を受賞しました。