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上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

総選挙大勝でも“やりたい政策”実現は茨の道
安倍首相を取り巻く「意外な状況」とは

上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]
【第96回】 2014年12月18日
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 第47回衆議院議員総選挙の投開票が行われ、自民党が291議席、公明党が35議席を獲得し、連立与党で合計326議席となった。公示前勢力とほぼ横ばいながら、衆院で法案再可決が可能な3分の2の議席数を超えた。一方の野党側は、民主党が73議席となり公示勢力から11議席増やしたものの、目標としていた100議席からは遠く及ばず、二大政党の一角という地位を回復できなかった。維新の党は横ばいの41議席にとどまり、共産党は議席を倍増させて21議席を獲得したが、次世代の党、生活の党、社民党は壊滅的な結果となった。結局、ほぼ公示前勢力通りの議席配分となり、「誰も勝者がない」選挙となった。選挙戦は盛り上がりを欠き、投票率は戦後最低の52%台にとどまった。

安倍首相のペースに乗って惨敗した野党:
「将来の日本」を逃げずに議論すべきだった

 昨年の本連載最終回(第73回を参照のこと)では、「2014年は『アベノミクス退潮』と『新たな改革派』に注目」と論じていた。アベノミクス退潮はその通りだったが、安倍晋三首相は、江田憲司氏と民主党の保守系が合同する形の「新たな改革派」が姿を現わす前に、電撃的な解散総選挙に踏み切った。準備不足の野党側はなすすべがなく、まさに安倍首相の作戦勝ちであった。

 選挙結果自体は、特に驚くべきことではない。安倍首相が「アベノミクスの是非」を事実上の単一争点に据えた時点で、勝負はついていた。アベノミクスは、瞬間的に過ぎなかったとはいえ、「失われた20年」の長期経済停滞に苦しむ国民にとりあえず一息つかせたという事実があったからだ

 国民は馬鹿ではない。第二次安倍政権が発足するまでに、歴代政権が苦心惨憺取り組んできた財政再建や持続可能な経済運営を理解しないわけではなかっただろう。経営者も現場も、アベノミクスの本質が「モルヒネ」のようなものだとわかっていた。だが、それでも「今さえよければいい、もう一息つきたい」という気持ちを捨てることは難しかったということだ(第94回を参照のこと)。

 野党側も国民の心情を理解できないわけではない。だから、「アベノミクスは失敗だ」と批判しながらも、結局は「国民の生活の充実」を訴えるにとどまった。だが、財政赤字を直視することのない対案は、リアリティがなかった。与党との違いもよくわからず、野党が国民の支持を得るのは難しかった。

 今回、投票に行かなかった約48%の有権者に訴える政策はなんだったのか。それは、「モルヒネ」を打ち続ける対症療法をやめて、増税を予定通り断行して財政再建に真正面から取り組み、持続可能な社会保障制度のあり方を模索する。そして、既得権益に切り込み、斜陽産業に退場を促す「構造改革」「成長戦略」に尽力することではなかったか。将来の国民のために、引退・現役世代に「痛み」に耐えてもらうことを、逃げずに敢然と訴えるべきではなかったか。

 所詮、今回の総選挙で野党が勝つことは、最初から無理だったのだ。それならば、安倍首相のペースに乗って、「アベノミクスの是非」という短期的な論点を争うべきではなかった。「選択肢がない」といって棄権した約48%の有権者が聞きたかったのは、「将来の日本はどうあるべきか」という中長期的問題を、言いにくい話から逃げることなく議論することだったはずだと、筆者は確信している。

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上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]

1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。

 


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国際関係、国内政治で起きているさまざまな出来事を、通説に捉われず批判的思考を持ち、人間の合理的行動や、その背景の歴史、文化、構造、慣習などさまざまな枠組を使い分析する。

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