働く人にとって厳しい時代に
対策が充実しても不調者は増えている?
景気回復の傾向の鈍化、成果主義による競争の激化、職場のコミュニケーションの低下……働く人にとって厳しい時代が長く続き、その歪みは体の不調による休職者や退職者の増加という形で表れている。身近なところで「部下がうつになってしまった」「隣の部署の同僚が過労で倒れた」などという話を聞くこともあるのではないだろうか。
厚生労働省が行った『平成25年 労働安全衛生調査』によると、「過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1ヵ月以上休業または退職した労働者がいる事業所」の割合は、全体の10%。24年に行われた同調査の8.1%よりも上昇する結果になった。しかしその一方で、「メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所」の割合は平成24年に47.2%だったのが、25年には60.7%に上昇している。対策が行われても逆に状況が悪化するとは、いったいどういうことだろうか。
「長い時間をかけて蓄積されたストレスは、それなりの時間をかけて解決していくしかありません。今は依然として、長時間労働、いきすぎた成果主義、パワーハラスメント……と労働環境の厳しさが増しているので、メンタルヘルスケアを行っても結果が追いつかない状態。対策がムダだというわけではないのです」と語るのは、マーケティング・コンサルティングのための調査研究を行う、日本能率協会総合研究所の馬場裕子さんだ。
心の問題だけに、「100%効く」特効薬があるわけではない。職場のストレスチェックを行う、社員にストレスへの対処法をレクチャーする、管理職にマネジメント教育を行う、などの対策を講じることで、まずは新規の不調者が増えないよう、地道に取り組んでいくしかないという。
「うつは再発しやすいので、一度うつになってしまうと職場復帰には大変な苦労が伴います。本人はもちろん、サポートやコスト面では企業側にも苦労があります。私たちが2013年に行った『ビジネスパーソン1000人調査』では、『直近の3年間でメンタルヘルスに不調を感じたことがありますか』という問いに対し、全体の40.4%の人が『はい』と回答しました。病気と診断されるところまではいかない、この段階の人たちを早期発見し、問題を解決していくのが企業の目下の課題です」(馬場さん)
職場環境のストレスをうまく取り除き、「働きやすい職場環境づくり」へ導くことができれば、社員の心身に不調が表れたり、過労で倒れたりすることもなくなる。馬場さんによれば「職場にストレスを感じていない人のほうがパフォーマンスが高い」ことはデータで証明されているそうだ。つまり、働きやすい職場環境の実現は、やがては組織のパフォーマンス向上につながるのだ。
多数の社員を抱える大企業では、早期発見・未然防止の重要性に気づき、すでに9割以上の企業で何かしらのメンタルヘルスケアがなされているという。さらに、今年12月からは全ての企業においてストレスチェックが義務化される(50人未満の企業では努力義務)ため、日本企業全体の健康管理に対する意識も高まりそうだ。