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野口悠紀雄 緊急連載・アベノミクス最後の博打

ピケティの主張は欧米に対して検証したもので
日本経済には当てはまらない

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第11回】 2015年2月5日
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 トマ・ピケティは『21世紀の資本』(みすず書房)で、所得格差に関する新しい見方を示した。これまで所得格差は、税制をはじめとする制度的な要因によって大きく影響されると考えられてきたのだが、ピケティは格差拡大のメカニズムは簡単なマクロ経済的関係で説明できるとした。このため、彼の著作は大きな話題を呼んだ。

 しかし、彼の所論は、日本の場合には当てはまらない。これを以下に示そう。

ピケティの主張:
資本所得の比率が上昇するので
格差が広がる

 ピケティの所論の根拠は、概略つぎのようなものだ。

(1)資本・所得比β=s/gが、時系列的に上昇する。なぜなら、貯蓄率sが一定で、成長gが低下するからだ。
(2)所得中の資本所得のシェアα=r・βが、時系列的に上昇する。なぜなら、資本収益率rが一定で、βが(1)で見たように上昇するからだ。
(3)資本所得の格差は、つねに労働所得の格差より大きい。そして、相続によって次の世代にも持ち越される。このため、αが高い社会では所得格差が大きい。

 ピケティは、r>gという関係が、格差を拡大する基本的な要因だと言う。ただし、これについては、若干の注釈が必要だ。

 βの式をαの式に代入すると、α=r・s/gとなる。もしr>gなら、α>sという結論は得られるが、αが時系列的に上昇するという結論は得られない。αの時系列的上昇のためには、r>gというだけでなく、r/gの時系列的な上昇が必要だ。

 ピケティは、rがほぼ一定で、gが時系列的に低下するため、そうなるとしている。ただし、そのことに理論的な根拠はない。

 なお、ピケティは、上記(1)(2)の関係式を、それぞれ、「資本主義の第2基本法則」「同第1基本法則」と呼んでいる。しかし、これらの式は、資本主義以外の経済でも成立する普遍的なものだ。なぜなら、どちらの式も定義式だからである(このことは、ピケティの本でも明記されている)。

 すなわち、定義によって、s=⊿K/Y。また、g=⊿K/K。ここで⊿Kは資本の増分、つまり貯蓄を表わす。したがって、s/g=K/Y=βとなる。この式から、r・β=rK/Y=αが導かれる。

 ピケティは、以上の関係が実際のデータで確認されるとしている。ただし、彼が分析したのは、主として欧米のデータである。こうした傾向は、日本でも実際に観察されるだろうか? それを以下に検討する。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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野口悠紀雄 緊急連載・アベノミクス最後の博打

アベノミクスのメカニズムは、「金融緩和を行なう」という宣言によって、円安への投機を煽ることだ。円安によって輸出産業は潤うが、実体経済は改善していない。実際は、円安が経済成長率を抑えている。これは、アベノミクスの基本が間違っていることを示している。

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