鬱積した怒りが爆発したかのようだった。

 1月中旬、米デトロイトで開催された自動車の国際見本市。出展していた米テスラモーターズのイーロン・マスクCEOは、記者会見で水素を使う燃料電池車(FCV)について問われると、「extremely silly(非常に愚かだ)」とこき下ろしたのだ。

トヨタに牙をむくテスラ<br />間に立つパナソニックの憂鬱米デトロイトで開催された自動車の国際見本市。左がトヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「MIRAI」、右がテスラモーターズの電気自動車(EV)「モデルS」
Photo by Masaki Nakamura

 同じ会場では、トヨタ自動車やホンダのFCVが華々しく展示されていたが、それでもお構いなし。水素の貯蔵方式などを引き合いに出し「非効率」「意味がない」と畳み掛けた。

 マスク社長の怒りの原因は、容易に想像がついた。その約1週間前、米ラスベガスで開催された家電の見本市で、トヨタがFCVの技術について、特許を公開すると発表したためだ。

 特許公開といえば、テスラはすでに、電気自動車(EV)の市場拡大を狙って、昨夏に全特許の公開に踏み切っている。

 自分たちのお株を奪うようなやり方で、次世代自動車の覇権争いを仕掛けてきたトヨタに対し、心中穏やかでいられなかったというのもうなずける。

 一方で、テスラとトヨタは元々提携関係を結んだ間柄だ。

 2010年に豊田章男社長がマスク社長と会談した際は、すぐに意気投合し出資で合意。閉鎖していた米ゼネラル・モーターズとの合弁工場を、テスラに売却することも決めた。その工場でテスラは今、EVの「モデルS」を量産しているわけだ。

 ただ、その後両者の思惑は徐々にずれ始め、昨秋にはトヨタが保有株を一部売却。両者とも当初は「関係性は維持する」と言いながら、それ以降、協業の話は一切聞こえてこない。

 そうした経緯を踏まえると、マスク社長の発言は、複雑な思いを背景に抱えながらのものだったように映る。