なぜ、自分が言ったことまでメモを取るのか? その理由は、自分の言ったことに一貫性を持たせたいからです。人は案外(私は特に)、勢いで話していることが多いものです。メモを見返すと、相手が言ったことを憶えているわりに、自分の発言を忘れていて驚くこともあります。

「半年前、私は彼に対してこんな問題認識をしていたな。だからこういう会話をして、それに沿った課題を与えたんだっけ」

 メモを取って見直すこのひと手間をスキップすると、1回目の面談で「細かいことをきちんとやれ!」と言ったにもかかわらず、2回目の面談では「全体を俯瞰して不要な細かいことを省略しろ」と言ってしまうこともあるでしょう。

 実際のところはどっちも足りていなくて、そのタイミングで気になったほうだけを伝えている、というのがよくあるケース。また、メンバーが成長した結果、同じ人に対する課題が半年前と今回とで違う、ということもあります。

 しかしどちらにしても、その前提を踏まえたうえで伝えなければ、メンバーにとっては混乱のもとにしかなりません。そのうえ、信頼も失ってしまうでしょう。

 ひとたび「なんだ、思いつきで発言してるな」とメンバーに思われると、リーダーがどんなに真剣にアドバイスしても、真面目に聞いてくれなくなってしまいます。

課題を与えたものの、伝えてすっきりしてしまって、その後どうなったかを放置してしまう。そんなミスもリーダーはよくやります。しかし、前期の面談のメモを見直してから今期のその人について考えれば、「確かに私が与えた課題について、努力した形跡がある」とはっきり確認できます。

「半年前、途中まできちんとできるのに最後の詰めが甘いと指摘したけれど、それに関してはすごくよくなったよね。だから次のステップとして、ここを目指したらどうだろう?」

 次の面談の際にこのように伝えれば「前回の発言を憶えていた」というだけでなく「リーダーは半年の間、自分ができているかをずっと見ていてくれたんだな」という信頼につながるのです。

リーダーとメンバーの関係は1対1です。たとえ100人のメンバーを統率していても、1対100のコミュニケーションを取っていたら、チームで勝つことはできません。1対1のコミュニケーションが、100個必要です。リーダーにとっては100分の1の発言であっても、メンバーにとっては自分に向けられた、たった1つの発言なのですから。

 メモによってそのメンバーの意外な才能を見つけて、人が思いつかないような配置ができて、チームの勝利につながることもあるのです。

 1人のメモの作成にそれなりの手間がかかるとしても、その投資が半年の間、メンバーのパフォーマンスに効くのであれば、費用対効果の高い投資だと思います。

{メンバーとのコミュニケーション}に効くレシピ
双方向の「発言ノート」で信頼を育てる

次回は、「「負け癖チーム」のリーダーになってしまって、どこから手をつけていいかわからない……」という【リーダーのつまづき】に効くレシピを紹介します!(2/16公開予定)